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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第10章-3

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どんよりとした鉛色の空は、雨の最初の一滴をどこに落とすか、迷っているように見えた。いつ降り出してもおかしくない。

ぼんやり窓の外を見た。こんな天気の日は、何もなくても憂鬱になる。



戸口をたたく音。インターホンが鳴らないのに少々不安を覚えて、のぞき穴を見る。

「…あれ?」

…誰も見えない。はて、と思いながらも警戒して、九重を手に取る。ドアを開けたところにいたのは、方をがっくり落とした夕雷の姿だった。

「夕雷!」

「…親父が…死んだ。」

そして雨は、堰を切ったように降り出した。



「覚悟はしてたんだ…ずいぶん弱ってたしな…だが実際死なれると…なんって言うかよ…」

温かいお茶の湯飲みを、小さな手のひらで包み、ため息をついた。立ち上る湯気が消え、その向こうの悲しげな表情が見える。

「きっついよな。」



鎌鼬は、普通3兄弟で行動する。一人目が人間を転ばせ、二人目が切りつける。最後の鎌鼬が薬をつけ、人間があまりに深く森に入る前に警告するのだ。森の深いところには、人間とは相容れない…沢山の要素があるから。

夕雷は3兄弟の次男で、また彼の父遠雷の、唯一の跡取りだった。

「姉貴も、親父も…みんなあいつらに取られっちまったなあ…。」

口惜しそうに、茶をすする。

「あの…失礼だけど、三兄弟のうちの…もう一人は?」

彼はもうしばらく、手の中のお茶に視線をとどめてから言った。

「兄貴のことは…しらねえんだ。お袋は、俺が小っこかったときに、家出したとか言ってた。どっちにしろ、生きては無えだろよ。生きてたって、村に帰ってきもしねえそんなろくでなしとなんか会うもんか。」

沈黙が、小さな部屋を支配した。私はいたたまれなくなって、夕飯の支度を始める。

「夕雷?すぐ帰るの?」

背中を向けたまま、声を掛けた。

「え?いや…決めてねえや…」

振り向いて笑う。

「じゃあ泊まっていきなよ!ご飯作るからさ!」



私が夕食を作っている間に、飃はどこへやら出かけていった。戻った飃が手にしていたのは一升瓶。男同士ならではの意思疎通方だ。

夕食を作り終える頃には、二人ともすっかり出来上がっていた。そういえば、お父さんとお母さんのお葬式や法事で、親戚一同酒を飲んでは酔っ払ってたっけ。小さい頃はその意味が解らなかった。解ろうともしなかったけど…最近少しだけ、酒というものが、辛いことに効く薬になるということがわかってきたように思う。


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