飃の啼く…第10章-11
「夕雷。」
「ああ?」
「こいつを、己の村まで一緒に連れて行ってやってくれないか?」
七番は、飃の言葉にさっと顔を上げた。
「正気かよ、旦那!?こいつは間違いなくあんたの同属を何人も殺してんだぜ?」
夕雷が反論する。
「解っている。だからこそ、自分が手にかけたものたちが誰なのか、解らせてやりたいのだ。」
飃は七番を見下ろす。しかし、その目に慈悲のようなものは無かった。
「その後でまだ、生きていようと思えれば…それはそれでいい。」
夕雷は反論しなかった。その通りだと思ったのかもしれないし、間違っていると思ったかもしれない。
「じゃあ…またな。」
それだけ言って、彼は七番をつれていった。彼が本当の自分を知るための旅へ。
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「ついてきな。遅れてもオレは振りかえらねえ。」
もし彼らを見ることのできる目を持った人間がいても、夕雷と、その後を追う少年の姿は目に入らなかっただろう。
「まったくよ!こんな気違いじみた野郎を自分の村に連れて行けだと!旦那のほうがよっぽど正気じゃねえぜ…!」
夕雷は、収まらない怒りと混乱を、そのまま七番に投げつけるように言った。
黙って聞いていた七番が
「あの…この鎌…」
「ああ?」
夕雷の凄みにびくっとする彼には、先ほどのようなすさまじい殺気は微塵も無い。
「あなたの…お兄さんの…お返しします…」
おずおずと、持っていた鎌を差し出す。
夕雷は答えず、彼を引き離したいとでも言うようにスピードを上げた。しかし、少年は難なく追いついて、鎌を手渡そうとする。
自分のスピードに追いつけることに、ちょっとした驚きを覚えながら、言った。
「…おめえが兄貴を殺ったのか。」
「…すみません…」
ふん。と、夕雷が鼻を鳴らした。
「じゃあ持っとけ。手入れを怠るんじゃねえぞ!」
そう言って、夕雷はさらにスピードを上げた。
お前には、簡単に死んでもらっちゃ困るぜ。なにせ、村一番と歌われたという兄貴の鎌使いに勝ったんだからな…。