Larme〜songster〜-2
あれは、高1の時だった。
宏暁とカラオケに行った後、いきなり、『お願いだから、歌ってくれ』って言われて…
考えてみれば、みるほど、笑ってしまう。
笑ったら、宏暁は怒るかな?
宏暁の事も大好きだから、バンドを組むのもいいと思ったけど、楽しそうだし。
でも、先に恵と組んでいたから、無理なんだ。
恵の歌声が、大好きなんだ。
僕は、ずっと、恵とやっていく。
そう思ってた。
そう信じてた。
…あの日まで。
僕らはバス通学で、いつも一緒に帰っていた。
あの日は、たまたま尚人と、彼女の麻里奈も一緒で、4人でバスに乗った。
しばらくすると、物凄い衝撃が身体中を走った。
窓の外は、煙と火の海。
隣には、頭から血を流す恵がいた。
乗用車、バス、トラックなど、10台以上の車が巻き込まれた、大規模な事故。
朦朧とする意識の中、必死で彼女の名前を呼んだ。
叫んだ。
僕は、ワイシャツの袖を引き千切り、彼女の頭に巻いた。
…そして、確かに彼女の声を聞いた。
『音楽をやめないで』
『そうしたら、また、逢える気がするから…』
僕は、何度も頷いた。
恵は、とても苦しそうだった。
頭に巻いた袖には、血がにじんでいた。
…血が、止まらない。
「…そんな、寂しい事言わないでよ。」
僕が呟く。
でも、恵は何も答えてくれなかった。
僕は、恵の手を強く、強く握りしめた。
…涙が、止まらなかった。
卵と梅干しがにじんで見える。
あの時の事を思い出すと、いつもこうだ。
もう、10年も前なのに…
「哲明、」
顔を上げると、そこには、純一がいた。
「何?」
「大変なんだ、…すぐに来て」
僕が純一と宏暁の寝室に行くと、ドアを閉めていても聞こえる、2つの怒鳴り声があった。
「だから、恵だって言ってるじゃない!どうして信じてくれないの?」
「信じろって言う方が無理だろ!?ガキが、何を企んでいるんだ?」
「企む?ひどい!尚君の性格がきついのは知っていたけど、私には優しかったじゃない!」
「気安く“尚君”とか呼ぶな!」
「だから尚人、この子は恵なんだって」
「黙ってろ宏暁!大体、なんでこんなヤツ連れて来たんだ?」
「こんなヤツ?」
「いい加減にしろ、尚人相手は子供だ」
ため息をつきながら、純一が言った。
「ずっと、こんな調子なんだ…」
僕もため息をつき、言った。
「みんな、ちょっと落ち着こうよ!」
一瞬で部屋は静まった。
その時僕は、恵…と、名乗る少女と目が合った。
「…哲明?」
少女は、僕に飛びついて来た。
「哲明!」
少女は、僕にしがみつき泣いていた。
「…恵?」
少女は、頷く。
恵の面影がないわけではない。
「…ねぇ、ちょっと、2人にして」
僕が言うと、みんな部屋を出て行った。
「…君は、」
「私は、恵の生まれかわりよ。」
少女は、僕にそう言った。
「ねぇ、恵Rainyの事、憶えてる?」
僕は、少女に尋ねた。
「もちろん中2の雨の日に組んだんだよね?雨宿りしながら…懐かしいなぁ」
「…約束」
僕は、少女をじっと見る。
「憶えてる?」
「もちろん」
少女は、微笑んだ。
「守ってくれて、ありがとう」
僕は、自分が泣いているのがわかった。
もう、この少女を疑う事は出来ない。
これは、夢じゃない。
…奇跡を、信じてみたっていいじゃないか。
僕は、恵を抱きしめ、耳元で囁く。
「もう、離れたくないよ」
僕が言うと、胸の中で、恵がうなずく。
抱きしめる指先から、恵の体温が伝わってくる。
確かに、恵は生きている。
生きて、僕の目の前にいる。
…でも、
一瞬の後、僕は言った。
「一緒に暮らそう」