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Larme
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Larme〜songster〜-1

降り出した雨の音と、時計の音がやけに目立つ。
僕は何故か落ち着かなくて、部屋の中を行ったり来たりしていた。
「遅いね、宏暁」
コーヒーをいれながら純一が言った。
「一体、どこまで煙草を買いに行っているんだか」
ソファーに座ってギターを弾いていた尚人は指を止め、窓の外を眺めた。

―2ヵ月前。
僕らは、この郊外のタウンハウスに越してきた。
寂しがり屋の宏暁が、孤独に押し潰されないように。
独りで泣かないように。
…でも、それは逆に、僕らに“あの街”を思い出させた。

僕らは、しばらく、あの街に帰らない方がいいのかも知れない。
この街には、あの街の様に、深く美しい雪はないから…。

―ガチャッ
ドアノブを捻る音に、僕らは入口を見つめた。
僕は走り、バスタオルを持って、玄関に行った。
「おかえ…り、」
「ただいま」
尚人と純一がため息をついた。
声の主は、すまなそうに僕の頭を撫でる。
「宏暁、まだ帰らないのか…」
僕は、黙ってうなずく。
「…そうか」
勇平は、純一からコーヒーを受け取り、椅子に腰掛けた。
雑誌のインタビューの仕事で勇平がここを出たのが3時間前。
宏暁は、それより前にここを出たけど、煙草の自販機なんて、30分あれば往復出来る。
いくら雨が降っているからと言っても、1時間はかかるはずがない。
「…勇平、」
僕は、泣き出しそうな声で言った。
「宏暁は、もう、ダメなのかな?」
…涙が、
「…これ以上、辛そうな宏暁をみるのはヤダよ」
溢れた。
勇平は、困った様に笑い、静かに言った。
「哲明、おまえはどうだった?」
僕?
「僕は…」
―ピンポーン
僕らは、一斉に玄関を向いた。
…チャイム?
宏暁が、宏暁の家に入って来るのに、チャイムはいらない。
僕らは、顔を見合わせ首を捻った。
一体、誰だろう?
僕は、玄関に行き、ゆっくりとドアを開けた。
…そこに居たのは、ずぶぬれの宏暁と、
「…恵?」
何が起きたのか、何が起こるのか、僕にはさっぱりわからなかった。
―『哲明、おまえはどうだった?』
さっきの勇平の言葉が、頭の中を駆け巡る。
「恵!?」
バスタオルを持って来た勇平も、少女を見てそう言った。
「…宏暁、その子は?」
尚人が、宏暁に尋ねた。
…一瞬、見間違えた。
それほど、そっくりだった。
でも、そんな事は有り得ない。
この子は、どう見ても小学生にしか見えない。
何より、恵はもう…
「…熱があるみたいなんだ」
「え?」
言われてみれば、宏暁が抱えている少女は、苦しそうに息をしている。
「早く、寝かせないと…」
それだけ言うと、宏暁は寝室に消えて行った。
「どうしたの?何が起きたの?…あの子は誰?」
みんな、同じ気持ちだった。
あの子が誰なのか、こっちが聞きたいよ。
「…哲明、お粥作って俺、家から風邪薬持って来るから。」
「へ?」
勇平に言われ、僕は思わず間抜けな声を出した。
「…何言ってるんだよ?どういう状況かわかってるのか?」
尚人が言った。
「こういう状況だから、そうするんだ。」
「どこの誰かもわからないのに!?」
「どこの誰かわからなくても、拾って来たものは仕方ないだろう!?」
勇平が、声を荒げた。
そんな勇平を、僕らは初めて見た。
いつも穏やかで、常に静かに喋るのに…
静まりかえった部屋で、勇平はいつもの口調で言った。
「…尚人も、知っているだろう?アイツが一番脆いんだ」
尚人は、もう何も言い返さなかった。
「…あの子は、恵だよ」
沈黙を破る様に、僕が言った。
「宏暁が、恵を見つけて来てくれたんだよ」
なんでそんな事を口走っているのか、自分でも全くわからなかった。
―ぶっ
3人とも、散々僕を笑った。
はりつめた空気がなくなったのはいいけど、少しは期待していた事だったから、結構ショックだった。
もちろん、そんな非現実的な事がある訳がない。
わかってはいたけど、そう願わずにはいられなかった。
―どうして?
…あの“約束”があるから。

ご飯を炊きながら、僕は昔を思い出していた。
きっと、恵が居なくならなければ、女兄弟ばかりの僕は、炊飯器でご飯を炊く事も出来なかったと思う。

―音楽をやめないで
そうしたら、また、逢える気がするから…

あの約束は、最後の言葉。

あの時、もう1本早いバスに乗っていれば、乗れていれば、
…あんな事にはならなかったのかな?


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