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胸音
【純愛 恋愛小説】

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胸音-7

「店開くまではまだ時間あるし、家来る?」

二人で乗った電車の中で、薬指の指輪を外し忘れてることに気付いた。彼氏はいる?なんて聞かれたことはなかったけど、何となく知られたくなかった。そっと指輪を外し、ポケットにしまおうとする。その瞬間、指輪は手から落ちて、ホームと電車の隙間に落ちた…。

斉木くんの家は、マンションの一室だった。私達は2回目のキスをして、初めてのセックスをした。

「俺、相川のこと好きだよ。」

「うん。」

私は好きとは言わなかった。でも、私の体全部が彼を好きって言ってた。彼を好きになってよかった。でも、好きにならなかったら、もっとよかった。そんな事を考えながら、携帯でお客の誰かと話す、彼の腕枕の中で目をつむった。

お店で朝まで飲んで、それから安藤くんに会った。

「ごめん…、私、好きな人がいるの。」

「…気付いてたよ。相川が別の人を想ってること。でも、気付かないふりしてた。ごめん、俺って卑怯だよな。」

「なんで謝るの…。」

涙が溢れた。いつも当たり前のように側にいてくれた。一番、傷付けたらいけない人を傷付けた。

「本当は男らしく、幸せになってとか言いたいけど…。」

「ごめん…。」

一緒に色んな所に行ったね。色んなことを話したね。斉木くんに出会ってなかったらきっと…なんてそんな事言ってももう無意味だけど…。恋じゃなかった。でも、安藤くんのことが好きだった。本当に大好きだった。あなたの優しさはこの先、私がどんなに変わっても絶対忘れない。

そして、私達は別れた。

季節は冬になった。

私は大学に行かなくなった。大学で学ぶ4年間より、斉木くんと過ごす1時間は遥かに価値があって、その1時間の為に、寝る間も惜しんで、働いた。

斉木くんとは、メールしたり、電話したり、ご飯に行ったり。キスも体の関係もあったけど、私達は恋人じゃなかった。

「真由は変わらないよね。」

斉木くん…ヒカルくんがポツンと言った。見た目が派手になって、職業は風俗になった私のどこが変わってないんだろう…。

バレンタインデーが近付いてた。ヒカルくんは2年前のあの告白を覚えているだろうか?

あの日の、ごめん…の理由が聞けないまま、今日まできた。今年、チョコを渡したら、彼はきっと受け取ってくれるだろう。100%の笑顔で。

もう一度、告白をしたい。ヒカルくんじゃなくて、斉木くんに。

手作りのトリュフの味見をした。タバコの味を覚えた今の私に、チョコは甘過ぎた。

派手なドレスに、ブランドのバック、アップにした茶髪の髪に大きな花の髪飾りをつけた。

チョコを丁寧にラッピングして、お店に向かう。

いつもの様に、栄駅で降りる。まだだいぶ時間が早いから、ネイルアートの店に寄ってから行こうと思ってた。


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