胸音-3
「すごいね、ホストみたい!顔はあれだけど…。」
逆隣りの女の子も言う。 周りのみんなが笑った。当の本人は不思議そうな顔をしてこっちを見てる。
「ホストと言えばさぁ…。」
前の席に座った男子が言う。
「隣のクラスの斉木、今、こっちでホストやってるらしいよ!」
えっ…!!
「えっ、嘘?何て店?」
隣の席の女の子が聞く。
「確か、錦のプレシャスだったっけ…?行ってきなよ!」
またみんなが笑ってた。でも、私は笑えなかった。色んなことが頭を駆け巡る。その時、安藤くんが遅れて入ってきた。
「何、考えてる?」
二次会もすんで、私の家に来た、安藤くんが聞く。
「えっ?」
「神妙な顔してるから。」
「私っていつもそんなおちゃらけた顔してる?」
「うん。」
彼の肩を叩いた手を掴まれる。そのままキスされた。口に…それから首すじに…。
「…まだシャワー浴びてないから…。」
「いいよ。」
彼の手が胸元にのばされる。その手からそっと逃れる。
「先、シャワー浴びてきて?」
彼は渋々、浴室に向かった。出てくる頃には寝たふりをしてた。
とてもそんな気分にはなれなかった。
斉木くん…忘れようと思ってた。3年生になってからは一度も口を聞かなかった。でも、彼を探さない日は一日もない。
東京に行ったとばっかり思ってた。後ろ姿が似た人を見ただけで、ドキドキしてたけど。
会いたい、だめだ、会いたい。胸の中で想いが交差する。隣で寝息を立てる安藤くんを見ながら、一睡もできなかった…。
それから毎日が葛藤だった。誰にも相談できずに。体は変わらずここにあったけど、心はすぐにでも斉木くんの所に飛んでっちゃいそうだった。
会いに行こう。そう決意したのは、話を聞いて何日目だったろう。彼氏への罪悪感、ホストへの恐怖、それをひっくるめても、会いたかった。ここで会わなかったら、一生後悔する気がした。
美容院に行って、服を買って、精一杯のお洒落をして、お店に向かう。場所はインターネットで調べた。斉木くんの顔写真も載ってた。ここでは「ヒカル」っていう名前らしい。
栄駅で降りたら、もう夜なのに、すごい人ごみだった。何度か不安になって、帰ろうかと思ったけど、もう決めたんだからと何とか前に進む。
お店は駅から近かった。ビルの3Fにあった。看板で確認する。入っていいのか、立ち止まって悩んでいたら、後ろからお店の男の子に声をかけられた。
びっくりした。何を言われたか、ほとんど覚えてない。多分、初めて来たってことは伝えられたと思う。