飃の啼く…第7章-3
「さくら…もっと鳴け」
飃が胸に顔をうずめる。
「ひぅっ!や…っぁ…胸、舐めちゃ、らめっ…」
「いい声だ。ずっと聞いていたい…」
「馬鹿なことっ…言わにゃ…あぁっ」
電車のゆれがひときわ大きくなり、飃の一突きに絶妙なバイブレーションが加わる。
「っぁ…だ…声、聞こえちゃ…」
この声をふさいで欲しくて、飃の唇を求める。抱きすくめられて、飃のしなやかな腕に締め付けられる。
「は…ぁっ!」
息苦しくて…一度離した顔を、後ろから頭を押さえつけられて、さらに深い口付けで繋ぎ止められる。
ようやく、飃は私の息を解放して、耳元で告げる。
「さくら…いくぞ…」
低くかすれた声が耳を犯して、油溜まりにマッチを落とした時のように、爆発が全身を舐めてゆく。
「ぅん…っ、来てぇ…っ」
私はしばらく、飃の胸に頭をうずめたまま、シャツを握って痙攣していた。
やっと動けるようになると、飃が言った。
「やっぱり、前よりいやらしくなってると思う。」
私は頭をはたいてやった。
駅を降りてからバスに乗って(さすがにバスの中ではしなかった。飃は始終ニヤニヤしていたが。)さらに山道を行くと、金色や、紅に染まった木々に隠れて、飃の村があった。
「この時間は大体みんな出払っている。」
飃は言った。
「何をしているの?」
「狩だな。軒先に弓矢や槍が無い。」
すると、一軒の家の中から、飃とそっくりな若者が出てきた。年のころは…人間にして15歳くらい…?ずいぶん若い。といっても、私とそう変わらないか。
「兄者・・・?」
「颯(はやて)!」
颯君の顔が喜びに輝く。飃そっくりな顔だけど、こんなに少年のような表情は見たことが無い。
「兄者!いつ来るかと思って待ってたんだ!こちらが…?」
「えっと…八条さくらと申します。」
“妻の”というのが恥ずかしくて、名前だけ言った。
「兄がいつもお世話になって…」
「いえいえ!こちらこそ…」
わたわたとお辞儀する。
「おい、恐縮合戦はそのくらいにしろ」
弟は腰が低い好青年なのに、兄は尊大だ。