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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第7章-4

颯くんの話によると、ここのところやつらの襲撃は途絶えているものの、いつまた襲ってきてもおかしく無い状況なのだという。男たちは今のうちに狩りへ赴き、女たちは近くの人間の村まで降りていって薬や何かを買い込んでいるらしい。

でも、そんな危険が迫っているようにはとても見えないほど、ここの景色は美しかった。村の置くには滝と、小さな湖まであって、そこから小さな川が、村を横切るように流れていた。かなり広い村だ。かやぶきの屋根に、伝統的な木造の家。梁には立派な太い木材を使っていて、見上げれば囲炉裏の煙で燻され真っ黒くすすけていた。

「ほんとに素敵なところ…。」

「気に入ってもらえてよかったよ!この村は、武蔵で一番に大きな村なんだ!」

颯くんは、兄と同じように黒くて、ウェーブがかかった髪を短く切っていた。今は、戦いに備えて、一本ずつ鏃(やじり)を研いでいる。

「ねえ…こんなこと聞くの、失礼だってわかってるんだけど…」

「ん?」

その声が、あまりに兄のものとそっくりなので、私は驚いた。

「あなたたちの、ご両親を手にかけた奴のこと…覚えてる?」

研ぎ石と、鏃の擦れる音が止まる。

「ごめん!そうだよね!話したくないよね…」

出すぎたことを聞いたと、私はあわてて取り消そうとする。

「…いいよ」

颯くんは、手を拭って、私が座っているところまで来た。

「さくらさんは、もう僕らの仲間なんだから、当然知る権利があるはずだ。でも、さくらさんにとっては厳しい話かもしれない。」

私は息をのんだ。

「あの日、僕らの村を襲ったのは、人間だった。」

「・・・人間?」

颯くんは、囲炉裏の燃えさしをじっとにらみつけて話を続けた。それが、彼の敵であるかのように。



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数ヶ月ぶりに戻った村は、目に見えて荒れていた。かつては活気にあふれていた村。ところどころに放置された空き家が、今はなき主を思って、悲しい風にむせび泣く。

それでも、人間の服を脱いで狗族本来の衣装を身に着けると、それだけで自分の中にある血が熱くなるような気がする。

昔、弟とよく釣りに来た小川に釣り糸をたらし、薄れ始めた父との思い出に思いを馳せた。

狗族の中でも生粋の狼種であるこの村の狗族たちは、父が結婚相手に選んだ狐種の母を嫌った。親族の反対を押し切って祝言を挙げた後も、母の気苦労は耐えなかった。呪いのせいで弱っていく母を、父はどんな思いで看ていたのだろう。自分のしたことに後悔したろうか。母が自分を恨んでいるとは思わなかったのだろうか。


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