投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 69 飃(つむじ)の啼く…… 71 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第7章-18

「そいつは、他の澱みへの伝言を運んでいた虫だ。おれの村のモンがそいつを見つけて捕まえたんだが」そこで彼は声を落とした。

「どうやら、やつらは来年の内に、俺たちへの総攻撃を計画しているようだ。それまでは、力を温存するためにしばらく我々への攻撃は控えるように、と。」

「…それが虚構では無いと、どうしてわかる?」

夕雷は、自分の胸に手を当ててまっすぐに飃を見た。

「…この伝言を聞くために命を落とした、おれの姉貴の命にかけて。」

「迅雷殿のご息女ということは…春雷殿か?」

イナサが言った。

「そうだ。この虫を捕らえようとしているところを見つかって、敵の手に落ちた。その時姉貴は、おれに虫を手渡した後だった。罠かとも思ったが、それなら嵌める相手を殺す必要はねえやな。」

そこで少し言葉を切って、黙り込んだ。

「…姉貴の死に様は、立派なモンだった。おれもあんな風に死にてえ…」

「…お悔やみ、申し上げます」

私は、ここ数日間に味わったあまりに多くの死に、慣れてしまわないように言った。鎌鼬は、私が急に言葉を発したことに驚いたような顔でこっちを見た。

「あんたは確か、人間の薙刀使いだな?」

「ご存知ですか…」

「存知もなにも、あんたの事は、蝦夷まで知れ渡ってるにちげえねえ。長い間待ちわびた、救世主って奴だからな。」

私は、小さな声で呟いた。

「…責任重大だ…」

それに答えるものは、居なかった。



私たちは、次の日に山を下り、来た時のようにバスに乗って、電車に乗った。けれど、行きの時のような気分になることは不可能だった。時は不可逆だということを、いまさらながら思い知らされる。

イナサさんには、あんな風に言ってもらえたけど、私は、狗族のみんなの顔を見ることが出来なかった。窓の外に映った景色を、ただぼんやりと眺める飃は、これまでに無いほど虚ろな表情をしていた。自分が守れなかったものの大きさを、噛締めているんだと思う。私は、飃の手に自分の手を重ねた。

「飃、イナサさんの言うとおりだよ。」

「うん・・・?」

こんな飃を見ているのは、つらすぎる。

「私たちが強い武器を手に入れたからって、あいつらには絶対勝てない。でも、私たちが日本中を回って、困っているみんなの力になってあげたら、きっとみんなで協力できる。」

飃の顔が、だんだん真剣みを帯びてくる。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 69 飃(つむじ)の啼く…… 71 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前