『M』-1
真実の愛を知った時、私はきっと…。
―プロローグ―
街の外れにある寂れたホテルの一室で、私は名前も知らないオジサン相手に喘いでいた。
「あんっあっはぁん」
本気で感じてなどいない。これは演技。
軋むベッドが私の舞台。
「はぁ、はぁ…」
行為が終わって息を調える私をよそに、その人は手早く後始末をしはじめる。
やっと息が静まった私は、べッドから起き上がろうとする。
そこへ、身支度を済ませたその人が財布から五枚の万札を取り出し、ベッドへと放り投げた。
そう、これはお金を貰い、快楽を与えるカンケイ。
私はワタシを売っている。
―女子高生―
「……藤……東藤……東藤美貴!」
教室に響く私の名前。
言った本人はまだこちらを睨んでいる。
「いいか〜。ここは今度の試験に絶対出すからな。喋ってないで、ちゃんと聞いてろ!」
くだらない事を力説する教師と意味のない事が書かれている黒板を視て、何を学べと言うのか解らない。
それならまだ、友達と情報交換でもしている方が時間も有意義だと言うのに。
それを許さない、束縛された時間。
「ったく、ウザいねあのハゲ!……っで、どうだったの昨日は?」
叱咤も懲りずに、また語り掛けてくる友人。
「5枚。なかなかでしょ」
と、懲りずに答える私。
「さっすが〜。私なんて最近値踏みされ始めちゃってさぁ。この間なんか、2万でどう?だって。ふざけんなっつーの!」
小声で怒る友人に、私もまた小声で
「ヒドーイ」
と答えた。
人の価値が何で決まるか知らないけれど、今の私達はこの諭吉の数で決まる事だけは確か。
だから私は演技に努める。
自分の価値を上げる為に。
「それでそれで、次はどんなのにすんの?」
友人の言う、次…それは次にワタシを売る相手。
「ん〜、次は青年実業家とか?」
「アハハ。いいね〜それ。私も挑戦してみようかな。格好良かったらマジ拾いもんだよね」
「だよね〜」
実際はもうそんな事どうでもよかった。
脂ぎった中年だろうと爽やかな青年だろうと、貰えるモノの価値は一緒。
今更、嫌悪感も貞操概念もさらさら無い。
私はまた友人との世間話を続け、退屈な時間を潰し始めた。
すると話の途中で、ポケットの携帯電話が震えだす。
「あ、ごめん。メールみたい」
一応の社交辞令を言い、携帯を開く。
『返事どうもありがとう。それじゃあ6時に南口の前で』
内容は次に売る相手からの返信だった。
「今日も客入ったの?稼ぐね〜」
友人からの皮肉の言葉に、私は画面から彼女へと視線を移し
「まぁね〜」
と、おどけて答えた。