忘却の日々-6
2043/10/5
またこの場所に来た。
何故だか分からないけれど、毎日のように訪れては、そこに座る。
もう老い先短いこの身だけれど、きっと死ぬまで続けていくのだろう。
ここで何かを得て、何かを失った。
おぼろげながら覚えているものがある。
確かに大切な時間が存在したこと。
柔らかな微笑が、頭の片隅に息づいている。
誰だか思い出せない。
ただ、感じる。
「おじいちゃん、またここにいたの?」
「おぉ、修太か」
「お家に帰ろうよ、今日は見たい番組があるんだ」
「そうじゃな。帰ろうか」
小さな手にひかれて、その場所を後にする。
『良い天気ですね』
誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り返った。
そこには、ふたつの指定席があるだけだった。
「なぁ、修太」
「うん?」
「わしが死んだら、あの木の根元に灰をまいてくれんか?」
「どうして?」
「分からん」
「分からないのにまくの?」
「あぁ、そうじゃ」
「分かった。その時はお母さんたちに相談してみるよ」
言って修太は小走りに家に向かっていた。
もう一度その場所を振り返る。
記憶は儚く。
どこまでも私を惹き付ける彼方の記憶、それは忘却の日々。
あとがき
生きていくうえで必要なものは?
その問いには、わたしならば「思い出」「記憶」と答えるだろう。それは今までの作品の中で暗に示してきた主題でもある。今回はそれらを失くした主人公の苦悩を取り上げた。本来ならばもっと長編にすべき作品ではあるが、私の集中力の欠如ゆえ許していただきたい。では。
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