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「とある日の保健室」
【学園物 恋愛小説】

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「とある日の保健室その1」-2

泣いていい?
「橘だ」
「いや、変態だ」
「強姦魔よ」
「白昼堂々と学校でするなんて……しかも無理やり」
「最低ね」
泣いていい?
いや、マジで。
朝からそんなひそひそ声が聞こえる。やっぱりだ。昨日危惧したとおり、何故か全校生徒に触れ回っている。犯人は言うまでも無い。
朝のホームルーム。ここで俺は生徒指導室に呼び出しを喰らう。そこに到達するまでに、またひそひそ声を聞いた。
泣きたい。
帰りたい。
「本当に何もしていないんだな?」
生徒指導部のボス、田之上直史である。浅黒い肌をしており、厳つい顔で俺を睨んでいる。
「しつこいですよ。俺は強姦なんてしてません」
「しかし、その……」
実に言いにくそうに、田之上は続けた。
「問題の星野という生徒がな……」
その先はなかなか言わなかった。焦れったいほどに黙っている。
いよいよ決心したのか、田之上は顔を上げ、俺に告げた。
「学校に行きたくない、と……橘達也に逢うのが怖い、とも言っていてな……実はさっき、星野のクラスメイトたちが数人来て、『橘達也を退学にしてくれ』と要求してきた」
有り得ない。
いくら何でもやり過ぎだ。
あいつ……そんなに俺の事を……
「田之上先生」
「……何か言い分があるのか?」
田之上はさらに睨んでいた。恐ろしい。だが、怯まずに言う。
「俺はやってません。何なら、とことんまで調査してください」
俺は椅子から勢いよく立ち上がった。田之上に背を向け、生徒指導室から出る。
このあと、どこに行くかは決まっている。
保健室だ。



「双葉先生」
がらっ、と保健室の戸を開ける。双葉先生に逢いたかった。先生は、先生だけは俺の味方の筈だ。
「先生……?」
今日もいない。
いいや。どうせ今日も授業を受ける気はないんだ。ここで待ってよう。
ベッドに腰掛ける。
にしても……
「……くそっ」
生徒のひそひそ話しで、俺は思い出した。思い出したくないのに……思い出してしまった。
「ちくしょう……」
昔の事を。
(落ち込んでるわ……フフフ、いい気味)
後ろから、星野が隠れつつ見ているとも知らず。
「ちくしょう!」
壁に拳を思いっきり叩き付ける。苛々しすぎて、何かに当たらずにはいられない。
星野が身体を僅かに震わせたとも知らずに。
「ちくしょう……何で、俺を……やめてくれよ……何もしてないじゃないか!」
肩が震える。
怖い。
怖い。
怖い。


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