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抱きしめたい
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抱きしめたい-1

「ありがとうございましたぁ〜。」
あたし、市川麗は夏休み中コンビニのバイトをすることになった。
しかも、夏休みに入る1週間前突然。


――1週間前――
「ほんっと、ごめんね。麗ちゃん。」
バイトの話を持ち掛けられ、了承したあたしに同じ学校に通う幼馴染みの井上 亜紀はお礼より先に謝った。
「いいよ、全然。あたし暇人だし。」
「ほんっと、ごめんね。麗ちゃ〜ん。」
両手を合わせて亜紀ちゃんの口真似をしながら謝ったのは、今回の元凶である亜紀ちゃんの彼氏、根岸 鳴海。


ぱしこーーーーーーんっ

根岸君の頭を丸めたプリントで亜紀ちゃんが殴った…。
「もっと、誠意を込めて謝って!もとはと言えば鳴海の我が侭で…っ。」

そう、もともとは亜紀ちゃんがコンビニをやっている叔母さんから頼まれていたバイトだった。
いつもいるバイトの大学生が夏休み中帰省してしまうので、月曜から金曜の夕方手伝って欲しい、と。
が、それを聞いた根岸君が

「なんで、そんなの引き受けるかな?せっかくの夏休み、大事な彼氏を放っておいて思い出作りもせず、バイト三昧なんて有り得ないでしょ。」
と言い出し、それでもあやふやな返答しか返さない亜紀ちゃんに痺れを切らせたのか
「よし、毎日バイト先に押し掛けてストーカーしてやろう。」
と冗談とも本気とも取れない事を提案しだした為、ほとほと亜紀ちゃんが手を焼いていたのである。
で、結局全てを変わる、というわけにもいかなかったが火曜と木曜をあたしがやることにしたのだ。

「愛故の我が侭じゃん。」

先程殴られた頭が余程痛かったのか未だ蹲り、頭を抱えたままの根岸君が呟いた。
「何?」
じろり、と亜紀ちゃんが睨む。
「亜紀ちゃん、ほんと大丈夫だから。そのかわり感想文以外の宿題、根岸君宜しくね。」
こんな、2人の光景は微笑ましい。
亜紀ちゃん、前彼と別れた後かなり辛そうだったから。
今みたいに元気な亜紀ちゃんを見られると凄く嬉しい。
まぁ、ちょっと大変そうだけど…。
「うん、感想文だけはできなさそうだけど、他のやつは任せておいてよ。」
親指を立て根岸君は笑った

彼はちゃらちゃらした感じがするけど、これがまた見かけによらず成績がいい。常に学年10番以内に入っている。

こんな成り行きがあって、あたしは今コンビニでバイトをしている。

ドアの外をふと見る。少し雨が降り出していた。
「あれ…?」
コンビニの前にある大きな木の下で誰かが立っている。
待ち人来ずってとこかな。
そんなことを考えていたら夕方のピークがやってきた。
あたしはそこから目を離し、仕事をした。
やっと一息入れられる頃にはもうバイトも終わる時間になっている。

「え…?」
あれから2時間は経っているであろう。
だけど、さっきの人はまだ立っていた。
雨は強くなっているのに、傘もささず。
その人の事が気になって、バイトが終わるまでの数十分があたしにはかなり長く感じられた。

バイトも終わり着替えて外に出ると、まだその人は木の下に所在なさげに立っている。
たまに他の人が前を通っているけど、誰もその人を見ようともしない。
冷たい世の中になったもんだ。
あたしは店で傘を買い、その人の元へ向かった。

近くまで寄るとその人が男であることが判明した。
が、うつ向いていて顔がよく見えない。
逆ナンに間違われたらイヤだな、とは思ったがせっかく買った傘を無駄にはしたくない。
「これ、どうぞ。」
今日は天気予報で雨だと聞いていたから、自分の傘は持っていた。
さっき買ったばかりの傘を差し出す。
すると彼が少し驚いた顔をして顔を上げた。
あたしより頭1個分くらい高い身長。…歳は同じくらいだろうか?涼しげな目元が印象的だ。
やば…やっぱり逆ナンだと思われたかな?

ここが繁華街なら、間違いなく女の子が寄って来るであろう容姿に不安になった。が彼は
「俺が、見えるのか?」
と変な事を聞いてきた。

ごくり、と唾を飲む。
もしかして、あたし、声掛けちゃいけない人に声掛けちゃった?
「これ、傘、濡れないように、どうぞ!」
逃げよう、と本能が感じて彼に傘を手渡した…筈だった。
コトン…。
彼の手から傘が落ちた。
手から…といっても渡しそびれたわけじゃなくて、彼の手をすり抜けていったのだ。
サーーーっと自分の体から血の気がひいた。


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