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抱きしめたい
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抱きしめたい-5

1ヶ月後。
「ありがとうございましたぁ。」
残り少ない夏休み。あたしは相変わらずコンビニのバイトをしていた。

たまに、ドアの向こうに見える公園が視界に入る。
まだ、思い出すのは辛いから、極力考えないようにしていた。
だけど今日は雨。考えないようにしても、思い出してしまう。
ユウ…元気かな。
病院は退院した、とお兄ちゃんは言っていたけど。

あの後、病院に行く事はなかった。
会いたい気持ちはあったのだけど、「覚えていなかったら」というのと、何よりユウが最初に言っていた言葉が気になって。
〈誰かを待っていたような…。〉

だから、もしかしたら待っていた人と会っているんじゃないか。あたしを忘れて、あたしじゃない他の誰かといるユウ。
想像するだけで、胸が押し潰されそう。
…気付けば、雨は止んでいた。
「麗ちゃん、上がっていいよ。」
声を掛けられ意識が飛んでいたことに気付く。
「あ、はい。お先に失礼します。」
のんびり着替えを済ませ店の外に出る。

公園の横を通り過ぎようとした時
「薄情モノ。」
後ろから声が聞こえた。
ずっと聞きたかった声。
信じられなくてゆっくりと振り返る。
「ユ…ウ?」
驚いて声が上擦る。

「俺、ずっと寂しく待ってたんだけど?」
悪戯っ子のように笑う。
「ど…して?」
上手く言葉が繋がらない。
「忘れないって約束しただろ?」
視界がぼやける。涙が止まらない。
…あたしだって会いたかった。でも、ユウには待っている人がいるんでしょ?
期待させないで。
「…っく。…って。」
声が詰まる。
公園のベンチに座らされ、ユウはあたしが落ち着くのを優しく背中を擦りながら待っていてくれた。

「…ユウは、待っていた人に会えたの?」
暫くしてようやく言葉が出た。
「覚えてたの?」
目を丸くする。

それは、まるで会えたことを肯定しているみたいで
「あたしのトコなんかにいたら駄目でしょう?」
自分で言ってまた悲しくなって涙が目尻に溜ってきた。
「…それって、俺、期待していいの?」
「え?」と顔を上げる。
「麗も、俺を好きだって。麗は俺が待っていた人にヤキモチ妬いてるって、解釈していいの?」
この状況で、自分を繕う術はない。
あたしは素直に頷いた。

「あれ…麗だったんだ…。」
ぽつりぽつりとユウは話し出した。

「俺は…麗が好きだったんだ。バスケの試合があるといつも市川先輩の応援に来てただろ?最初は元気のいい子だなーって見てたんだけど、そのうち応援に来るのを楽しみにしている自分がいて、試合の度に麗を探してたんだ。…あの日、あの事故の日は偶然部活の帰り道、麗がコンビニでバイトしてるの見かけてこんなチャンスないからきちんと会いたくて。でも俺、汗かいたままのジャージ姿だったから…。家帰って着替えてからあの公園に向かう途中だったんだ。」
「嘘…。」

「ホントだよ。…信じられないことに、俺ってば同じ人2度も好きになっちゃったんだな。」
照れくさそうに笑う。
涙が溢れて止められない。でも、これは嬉し涙。
ぎゅっと抱きしめられる。
これは、夢なんだろうか。自分の都合のいい夢?
「麗とこうしたかった。」
あたしは泣きながらユウの背中に手を回した。
ユウの感触。ユウの匂い…。
静かに目を閉じる。
「あたしもこうやって、抱きしめたかった。」

〜Fin〜


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