Students 4th two-1
幼少部から高等部までの全寮制エスカレータ式有名私立、凰宝学院。文武それぞれの専門学科を持ち、エリートとして育てられる。
生徒達はこの凰宝学院という一つの世界の中で育っていくのだ。
強く、誇り高く―。
私は幼い時からそう言われ続けてきた。家は日本で代々続く歴史ある名家の宗家で、幼少の頃から厳しく躾られるからだ。宗家の次期後継者は代々この学院に通うしきたりがあって、「刀」を極めなければならない。私は三姉妹の長女、みごと後継者として選ばれた。
だからこそ「強く、誇り高く」いなくちゃいけない。「木桜」の名に恥じぬよう―。
「木桜さん、試験結果が張り出されたそうよ。見に行かない?」
教室で静かに座っていると、クラスメイトが話し掛けてきた。
「そう、じゃあ行こうかな…」
愛想笑い。人付き合いは苦手だ。
「木桜さんは特進に行ける位頭も良いものね。総合順位の方が毎回楽しみでしょう?」
「えぇ、まぁ…人並み程度には」
此処の学校では、各科ごとの成績順位と全科総合の順位が張り出される。総合上位は大体、特進希望者が上位を占めるけど、スポーツ科だから馬鹿ということはない。努力次第でどうにでもなる。私は上位じゃないと家からお咎めが来るから、努力しているだけ。
まぁ負けるのは悔しいんだけど…。
「アズ!!」
貼り出しされている中庭の掲示板に近づこうとした時、後ろから呼ばれた。私のコトを「アズ」なんて気さくに呼んでくるのはナチしかいない。
「ルームメイトさん?あのリボン、普通科よね?」
「そう」
科によってリボンの色が違うので誰がどの科なのかはすぐにわかる。普通科は緑、スポーツ科は群青だ。
「アズも見にきたのぉ?」
ナチはニコニコしながら私に話し掛けてくる。
真っすぐストレートで綺麗なオレンジ色の髪、大きな猫目と高い身長のナチはモデルの様だ。
「そうよ。あんたと違って優秀だからね…ってあんた勉強の成果は出たの?特進狙いなんでしょ?」
ナチの成績は群を抜いて悪い。100番台をも大きく下回っている。これから高等部学科入試が控えているというのに、だ。まぁ最近は必死に勉強してるみたいだけど…。
「結構イイ感じだよ!今回は自信あるの!」
ナチは笑顔を崩さない。
「ナチ、特進だとか普通だとかくだらないんだってば。」
ナチの隣にいる同じくルームメイトの朱川紅が口を挟んだ。二人は幼少部時から親友らしく、いつも一緒にいる。
そこら辺の馴れ初めは知らないけど、お互いがお互いを頼り合って、認め合って恋人みたい。(まぁ、お互い恋人いるんだけど)
「紅が優秀だから合わせるのも大変ね。」
「そんなことないよ!!」
紅は、本当に頭が良い。初等部の時、まだ寮も同じじゃなかった頃でさえ、私は「朱川紅」の名を知っていた。総合順位一位、彼女は今まで一度もその位を譲ったことがないからだ。しかも全教科満点という点数と共に。
「…そんなことより、梓早く行きなさいよ。お友達待ってるわよ。」
つい話し込んでしまったことに紅の言葉でやっと気付く。後ろでは躊躇気味にクラスメイトが私を待っていた。
「あっ…ごめんね!じゃあ紅、ナチまた。」
急いで走り戻る。
「やっぱり他の科の生徒さんと同じ部屋っていいわね。お友達の輪が広がって」
優しくほほえんで言う。
「まぁ、ね。」
―私たちの部屋はあまり者組だけどね。
寮は普通、同じ科同士の友達や仲の良い友達と4人1組で寮の部屋を共有する。けど私はなるべく一人が良かったから同室者希望を書かなかった。だから、同室者希望数が足りなかった紅やナチ、書かなかった私と真子都が組むことになり、同じ部屋になったのだ。もう二年前の話だけど…。
「見て!!木桜さん今回もスポーツ科でトップよ!」
その言葉で我に帰る。
「あぁ、本当。よかった」
―第一関門は突破、と。
私は総合順位表に目を移す。
やっぱりトップは「朱川紅」満点か…。九教科もあるのに化け物かっつの。
素早く目を左にずらしていく。……あった。
総合順位38位。
ホッと胸の緊張が解けた。お咎めは無しで済みそうだ。
「木桜さん総合でも38位なんて、やっぱりすごいわ。」
「ありがとう」
笑顔で返す。
―えっ…。
私は一瞬目を疑った。だって私の5つ上、33位、見間違いなんかじゃなくて「友枝ナチ」の名前。そう、紛れもなくナチの名前がそこにあったから。
「やったぁ!!!順位上がった!紅!見て!!私、結構上位になったでしょっ!?」
後ろの方でナチの大きな喜びの声が聞こえた。
「信じらんない…」
いつも280人中ギリギリ250位以内に入るのがやっとのナチ。紅と特進に行くためにここまでやれるなんて…、誰かをそんな風に強く想うことが出来るなんて、信じられない。私には無理。誰かとそんなに深く関わることなんて出来ないから…。
私の心の奥で微かに"羨ましい"って気持ちが疼いていた。