僕とお姉様〜ファースト***は***の味〜-4
あれからバイトに行ったお姉様は朝になっても帰って来なかった。
僕は僕で、殆ど眠れず。
何であんな事を言ったのかという後悔と、何であんな事を言うんだという憤り。
いっそのこと本当に付き合っちゃおうか…
だってあそこまではっきり言われたら、もう見込みなしじゃん。
濁ったオブラートに全身が包まれた気分。
昨日貰ったメモ用紙を落とさないように制服の内ポケットに入れて昨日と同じ時間に購買へ行くと、僕が来るのを待っていたかのようにあの子がいた。
朝から何度も返事のシュミレーションをしたんだ。言おう、「ありがとう」って、「僕で良ければ」って、そのまま伝えればいいだけ。
「藤森さん、俺―…」
学校から帰ってもお姉様はいなかった。僕の部屋で寝てるのが当たり前になったのはいつからだったか。
たった24時間あの人がいないだけで色鮮やかな部屋がやけに味気なく見えるし、僕自身もモノクロになったみたいに生気のかけらもなくなる。特に何もしなくても気付けばもう夜。朝には帰ってますようにと願って布団に潜った。
その願いが叶うのはそれから数時間後の事。
深い眠りの底にいた僕は現実の世界へ強引に引っ張り上げられた。
「山田コラァッ」
ろれつの回ってない声は同時に酒の匂いも部屋中に撒き散らす。
「…くっさぁ……」
泥酔状態でお姉様帰宅だ。半分寝てる僕の事など一切気にせずに明かりをつけた。
「…眩し」
「うはは!山田これ見てこれぇ」
酔っ払いのむちゃくちゃなテンションに起こされ見せられた物はプリクラ。
「…」
友達と写ってるのは分かるけど、問題はその格好だ。
「何で女子高生のコスプレしてんだよ」
何故か隣市の女子校の制服を着ていた。
「かぁわいいでしょぉ?友達の借りちゃったー」
「バカじゃねえ?」
「バカじゃねえよぉ、ほら可愛いって言ってごらぁん」
「…可愛いです」
「当ったり前だろーがー!山田の彼女なんか目じゃねえぞー」
無理やり言わせといてその言い種…いや、ていうか、
「彼女?」
「とぼけんな!連絡下さいの子だろーがー」
さっきまでけらけら笑っていたのに急に怒り出し、僕の脳天を思いっきりはたく。
その衝撃からだろうか。
「ぅええ゛っ」
お姉様は突然えづいた。
「えぇ!?」
「いかん、吐く…」
「やめろ!ゴミ箱!!」
「********っ!!!!」
間一髪。
この情けない場面に立ち合うのはこれで二度目。初めて会った時以来だ。
お姉様は僕に背中をさすられながらも怒り続けた。
「山田のクセに彼女作るんじゃねえよ…っ、ぉえっ」
「吐くか喋るかどっちかにしてくれ」
「うるさい!山田なんかお子様同士仲良くやってりゃいいじゃん!!」
「あの子なら断ったよ」
「自分だけ幸せになりやがってー…、断った?」
酒のせいでいつも以上に暴走してたお姉様が一瞬素面に戻って振り向いた。口元に付いた何かのかすが気になる…、まあ、今はどうでもいいか。
結局僕は連絡先の書かれたメモ用紙をあの子に返した。シュミレーションにはないセリフ、「好きな人がいるから」と伝えて。
「何で?昨日付き合うって言ってたじゃん」
「うん、でも断った」
「何で?」
何でってそう何度も聞かれても答えづらい。だって理由は目の前のお姉様なんだから。