結界対者 第一章-12
「きっと、栞さんが導いたのよ!」
「……そんな!」
違う、暮らしてみたくなったのは、あまりにも俺の中に母親の記憶が少なくて、なんとかそれを埋め合わせてみたくて……
「私はそう思ってる。だってさっき、休み時間に、なんとなく栞さんの声が聞こえた気がして、屋上に登ったら、そこにアナタが現れたんだもの」
「……何だと?」
「その時は、その意味が解らなかった。でも、今ならなんとなく解る」
彼女はそう言うと、再び背を向けて歩き出した。
俺は、未だ釈然としないままに、その背中を追う。
そして、暫く進み、街路樹の果てを過ぎた頃、彼女は立ち止まり
「あれ。あれが旋風桜」
と目の前にある、小さな公園らしき場所に立つ桜の大木を指差して声をあげた。
「これが、旋風桜?」
「そう、アナタが護るべき結界。そして、アナタの力の源」
「力…… さっきの、教室での風の事か」
「そうね。普通は結界の存在を自覚しなければ、力を使えない筈なんだけど。希に強い意思によって、力が発動する場合もあるのよ」
「強い意思?」
「おおかた、あの三馬鹿にマジ切れして、殺してやるとか思ったんでしょ?」
「…………」
ニヤリと彼女、しかし図星だから答えは無い。
「でも、気を付けてね」
「…………?」
―6―
「今、私から全てを聞いたアナタは、自分の力を自覚した筈。その力はアナタの意思に忠実で、さっきみたいなヤバイ状況なんて簡単に作れてしまうんだから」
思わず息を飲む。
しかし、それと同時に、俺の中にある疑念が生まれる。
「なあ、力とか…… その対者ってさ、何の為のモノなんだ?」
「だから、言ったでしょ? 結界に眠る力を、それを狙う悪い奴らから……」
と、その時!
不意に、言いかけた彼女が動きをとめた!
「な…… どうしたっ?」
「……来た!」
身構え、何処からともなく先程の銀時計を取り出す、そして空に向けてそれをかざし
「刻・縛!」
それまでの口調からは想像も出来ない程の、勇ましく凛々しい声で叫びを放つ。
「来たって、何がっ? それにコクバクって何だっ?」
「忌者! イマワノモノよっ! 要するに、力を狙う悪い奴っ!
だから、ヤバそうだから時間を止めたのっ!」
「時間を止めた…… だと?」
言われて辺りを見回す。
すると確かに、車道を走る車も、遥かを行き過ぎ様としていた自転車も、そして俺の腕時計までもが、その全ての動きを止め、そのままの様相でそこに在った。