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例えばそれが、夢である必要
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例えばそれが、夢である必要-7



世界は虚ろで、僕は直ぐにこれが夢であると理解した。どうじに酷い恐怖を覚えた。 夢の中で、こんなにも意識がはっきりとしている時、僕は決まって嫌な夢であったからだ。

前に見た夢は不気味であった。
その前に見た夢は不思議であった。
その前に見た夢は奇妙であった。
その前は曖昧で、その前は混沌であった。
今回はどんな物であろうか。
僕は夢の中なのに、これから起こる出来事に身構えた。

今回は真っ白な世界であった。正確に言えば真っ白では無かったが、そんな事はどうでも良かった。この世界は僕の物であるし、また僕の物では無かったからだ。
「逆説」
僕は夢の中で、はっきりとそう言った。意識した言葉では無かった。
すると目の前に、一輪のスイレンの花がポッと咲いた。僕はその花を長い時間見ていた。花は酷く不機嫌で、たまに機嫌であった。
「逆説」
と僕はもう一回言った。
花は一回、頷いて枯れた。
すると今度は、花から小さな人間が現れた。僕はその人を長い時間をかけてじっくり見た。麦ワラ帽子を被り、ボロボロのコート来た絵描きだった。
絵描き?と、僕は思った。
何故、今僕は彼が“絵描き”だと思ったのだろうか。彼は絵描きに見えなくは無かったが、また見えなく有った事も確かであった。
「ぎゃくせ―」
言おうとした途端、絵描きは消えてしまった。身体がボロボロと崩れさり、やがて灰みたいな物だけが残った。
僕はそれを見て、たまに泣いた。泣いてはそれを拭き、ジッと見てはまた泣いた。
それを繰り返し繰り返し続ける内に、心の隅が黒ずんだ様な錯覚を受けた。

そこで一回、意識が途絶えた。




朝であった。
僕はひどく汗をかき、たぶんおそらく、喉の渇きで目が醒めた。

今日は文化祭の、最後の日であった。


◆ ◆ ◆

その日、僕の脳が完全な覚醒を果たしたのは高橋が死んだ報が届いたのちであった。

とりあえず熱はひいていたのだがすさまじく身体がだるく、また頭がボーッとしていた。意思とは逆に動く身体を鼓舞しつつ、僕はいつものコーヒーメーカーにスイッチを入れ、玄関のポストに新聞を取りに出る。 その際、隣の人と顔を合わせ、形式ばかりの挨拶をすます。リビングに戻りコーヒーを飲みつつ新聞に目を通し、食パンを一口かじる。
いつも朝だった。
僕がトイレに入ろうとした時であったのを、今でも鮮明に覚えている。あれほど、自分の身体を忘れた出来事は無かった。
それほど衝撃的な事実であった。あるいは、無衝撃な事実であった。
たぶん用意をされていた様な、そんな淡々とした報告であった。機械的な、又は幾何学的な。
携帯電話が鳴って―クラスメートからだ―僕は四コール目で出た。
「もしもし」と僕は言った。
「タケダか?」と、受話器が言った。
「ああ」と、僕は受話器に向かって言った。
たぶん、乾いた声だった。
「タケダ―今から話す事は全て事実だ。良く聞いてくれ」と、また受話器が言った。
「ああ」と、僕はまた言った。
たぶん、乾いた声だった。
「高橋が死んだ。今朝、死んだのを確認されたそうだ。誰がしたかなんて知らないが、死亡の確認がされた。」
受話器は喋る。
「大量の睡眠薬を飲んだらしい。確実に死に至る量だったそうだ」
高橋らしいな、と僕は思った。
受話器はさらに喋る。
「眠る様に死んでいたらしいよ。高橋の母親が言っていた。実は俺、さっき高橋の親に直接あって知ったんだ。それでお前にだけは伝えなきゃって、そう思って」
と、受話器は言った。
僕はありがとうと言って、電話を一方的に切った。
耳元でブツッて鳴って切れた。

この瞬間、僕は覚醒の時を迎えた。


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