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例えばそれが、夢である必要
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例えばそれが、夢である必要-6



「貴女に、高橋の何がわかるっていうんですか」
声を荒げるのは久しぶりだった。
「あら、わかるわ。単純だもの、高橋君て」
青山 京子はサラリとそう言った。
「高橋君はね、典型的な指導者タイプね。話した感じでわかる。 言ってる事は筋が通っているし、語彙もはっきりしている。目線も素晴らしく相手を捉えていて、それこそ隙がないくらい完璧ね」と青山 京子は言った。
僕はただそれを聞いた。
「でもね、やはり“それだけ”なの。それは立派な人間なんでしょうけど、ただそれだけ。私の言いたい事、わかる?」
「わからない」と、僕は言った。
「つまりね、果てが無いの。個性が無いのじゃない、逆に彼は個性に溢れた人よ。でもただ“それだけ”なの。そうね、言い換えるなら“完璧な個性”とでも言いましょうか。―んっと…少し違う。“完成した個性”かしら」
「わからない」と、僕はまた言った。
「完成しているの、高橋君は。それはタケダ君が一番知っているんじゃない? 完成している人間なんて凄いよ。凄いと思う、けどつまらないのよ。 そう考えると、タケダ君の方がずっと魅力的」
彼女は、それだけ言うと黙った。コカ・コーラの空き缶をチラリと見て、それから僕の眼を見た。
僕はすいこまれそうな感覚を覚えながらも、必死で答えた。
「確か高橋は、出来た人間です。でも僕は、それを完成された人間だとは思いません」
僕はムキになっていた。高橋の一番の理解者である僕が、彼女にそう言われて少し納得してしまったからだ。
「高橋は貴女の事をこう言いました。“不完全な完璧”と。それがわかる人間は、やはり不完全なのではないのでしょうか」
「不完全な完璧?」と、彼女は言った。
そしてゆっくりこっちを見てから、またコカ・コーラの空き缶を見た。
「なるほどね。タケダ君がそう思うのなら、そうなんでしょうね」
と、彼女はそう言った。そして。

「おもしろい考え方をする人ね。私、タケダ君みたいな人が、好き」

彼女は確かに、そう言った。




気付けば舞台公演も、終わりの時間に迫っていた。
僕はそれほど、彼女との会話に集中していた。
「タケダ君、よかったらまた話さないかな。私は今日、タケダ君と話せて良かったと思っているの。タケダ君は?」と、彼女は言った。
「僕もそうです」と僕は言った。
嘘ではなかった。
「そう、良かった。もし良かったら連絡して」
彼女はそう言って、一枚のメモに何かを書いて渡した。 メモには電話番号が書いてあった。
「それじゃ―」と彼女は言った。
そしてゆっくり、ホールに入って行った。

後ろ髪が、サラリと揺れていた。




僕は劇が終わるとすぐに高橋を呼び、さっき話した内容の一部始終を話した。高橋は終始、静かに僕の話を聞いていた。その眼は冷たく、また温かなものだった。




僕はその夜、盛大に吐いた。胃の中の物が全て出終わった後は、胃が無理矢理、何かを吐き出した。
そして、今世紀最大の高熱を出し―後にも先にも一番の高熱であった―僕は眠った。薄い眠りであった。

だからかも知れない。
僕は夢を見た。
浅ましき夢であった。


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