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例えばそれが、夢である必要
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例えばそれが、夢である必要-5

◆ ◆ ◆

次の日、僕は観客席にいた。
一階の後ろから三番目の列、右から一番目の椅子だ。ホールは二階からなっており、近隣のコンサートホールでは最大の大きさを誇っていた。
席は基本的に自由に座って良かった。 貸し切りという事で席は余り、逆に寂しさを覚える程だったからだ。しかしながらまあ本番になると、前の席に生徒達が集まるため、一応は盛り上がりを見せるのであった。
くだらない、と思った。 こんな事をする金があるなら、学校にある良く壊れる冷水機をなおすべきだと僕は思った。

僕が座る列には人はいなく、それが僕には心地よかった。ガランとした椅子の列は、僕に恍惚感をあたえた。
僕はそれにひたりながら昨日の事を考えた。 クラスが救いようがないと思った事、青山 京子が綺麗だと思った事。あとそれと、高橋が確かに言った言葉の事を。頭の中にひとしきり高橋の言葉が蘇り、また消えていった。

彼女の事なんかわかるものか。

高橋はそう言った。
それは僕が知るかぎり、高橋が吐くセリフではなかった。 僕が知る高橋は、常に調和をはかろうとする、どっちかと言えば“気を使うタイプ”の人間であったからだ。しかし高橋は、気を使う事を苦にした事は無かったし、文句を言った事も無かった。逆に彼自身から率先して“それ”をやったし、例えば彼は“それ”を生き甲斐にしてる感もあった。 そんな高橋が言うセリフではなかった。
僕はいささか、ほんのいささか残念であった。僕は自分自身こそが高橋の一番の理解者であると自負をしていたし、周りもそれを認めていた。それが、ただ一人の女性―青山 京子である―によって、あそこまで変わってしまったのだ。
残念でしか無かった。
少しばかり、嫉妬もしながら。

そうだな―僕は嫉妬をしていた。なんに対してかは、わからないが。




劇が始まると同じに僕は席を立った。我がクラスの順番まで時間があった、確か後四つクラスをはさむはずだ。

僕はホールから出て、外でコカ・コーラを飲んだ。近くの自販機で買った物だ。 なんとなしに―どこを見るともなく―時間を潰した。車が道路を行きかい、鳥達は排気ガスを臭そうに顔をしかめるのをジッと見ていた。
たぶん、コカ・コーラが三分の一ぐらいになった時であった。僕は今、一番話したくない相手がホールから出てくるのを目にした。
まだ推測の域を過ぎないが、僕の高橋を変えた人物であった。

青山 京子は端に座る僕を見つけると、迷わず真っ直ぐこちらに向かってきた。 その眼に、迷いやもしくは愁いなんてものは微塵も感じさせず、変わる前の高橋の眼を思い出させた。

「隣…いいかしら?」と青山 京子は言った。
「どうぞ」と僕は鼻にかけた様に言った。
断る理由は―たくさんあったが。
青山 京子はありがとうと言って、隣に座った。僕は残ったコカ・コーラを一気に飲んだ。 炭酸は抜けていた。
「見ないの?劇」と青山 京子は言った。
僕は何も言わず、ただ一回だけ頷いた。 青山 京子は、何故か笑った。それを見て、しかし僕は笑わなかった。

僕は彼女が嫌いだった。

青山 京子は、僕が笑わなかったのを気にも止めない様子で話を続けた。
「確かタケダ君だったよね。よろしく」
「よろしく」と、僕は言った。
やはり彼女は、また笑った。僕にはそれが気に食わなかった。
「タケダ君っておもしろいのね。高橋君とは、比べ物にならない程に」と青山 京子は言った。
確かに言った。
「高橋君の事をバカにするなって、そう言いたいの?」と青山 京子は言った。
確かに言った。

僕は、久しぶりに怒った。


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