続・夜の学校-6
「あなた、今どこにいるの？」
「今現在マイホームだ」
「家なの？ 校門に１０時って約束したのに、なんで家なのよ。今夜学校の警備するって言ったでしょう？ 今からでもいいからさっさと学校に来て」
「悪い悪い。すぐ行くよ」
そういえば夜の警備をするって言ってたな。というかこっちの都合も聞かずに勝手に決められたからなぁ。まったく俺という男は…。
俺はベッドからだるい体を起こし、身支度をしてから玄関のドアを開けて外に出る。両親は俺をおいて温泉旅行に行ってしまったので、夜に外に出ても誰にも何も言われない。まったく子不幸な両親だ、俺も連れてってほしかった。
外にでると辺り一帯は熱帯夜だった。相変わらず蒸されたような熱気が俺の体にまとわりつく。
しかしそれでもやっぱり俺は夏が好きだ。昼間のセミの声に変わって夜に聞こえる虫の音色は、夏にしか味わえない雰囲気を出してくれるからな。ああ、夏なんだって思うぜ。
通りを歩いているとき、近くの公園でガキ達が騒いでいる声が聞こえた。きっと裏路地の駄菓子屋で買ってきた花火で、盛り上がっているのだろうな。
俺が小学生ぐらいのガキだったころも近所の奴らと花火を持って盛り上がっていたな。巨大な花火をぶっ放してギャーギャー叫んでたっけ。他にはネズミ花火が面白かったな。そして最後の線香花火が消えたときは少しせつなくなったっけ。
そんな思い出に浸っているうちに長い坂を登りきり、ようやく学校についた。
そして校門を通ると、グラウンド誰か立っていた。
「遅いわ。３０分もまたせないでよ」
委員長が、唇をとがらせて言った。
「悪い。帰ってから寝ちまって。疲れていたからなあ」。
「…まあいいわ。さっさと行きましょう」
「おう」
空を見上げてみると、今日もいい天気だったので、夜になっても雲ひとつない空だった。もう俺は夜の学校に出向くのは二回目なので、一回目ほどの期待感はなく、今日もなにごともなく終わるだろうと思った。今日は昼寝もしてきたし、昨日ほど眠くはないから体力はあるけどな。
俺と委員長は校舎内に向かって歩き出す。
あ、そういえば、いや心配ないと思うが、
「あの、一つ聞くが校舎内に入る鍵はあるか？」
俺は少し不安になって聞いた。
すると委員長は、
「鍵ならあるわ。理由を言って職員室から借りてきたの」
とポケットからじゃらっと鍵束を出して見せた。さすがは委員長。近藤とはえらい違いだ。それにしても夜の間の警備という理由で鍵を借りれるなんて、生活委員の権力は一体…。
委員長は校舎の入り口のところに行って鍵を開けようとした。
「あれ？ おかしい」
鍵を鍵穴に入れたあとに、委員長がつぶやいた。
「どうしたんだよ」
「鍵がもともと開いている。誰か中にいるのかしら」
鍵が開いていたのか。そういえば昨日近藤と行ったときもそうだったな。じゃなきゃあの時俺たちは何もせずに帰るところだったからな。
「昨日もその状態だったよ。きっといつもそうなんだろ」
「だとしたらずいぶんいいかげんな警備体制ね。これじゃいつ泥棒が入ってもおかしくないわ」
確かに委員長の言うとおりだ。この学校に金品がどれほどあるのかわからないが、そうは言っても２４時間開放しっぱなしっていうは問題だな。
「とにかく中に入ろうぜ」
真っ暗な校舎内にはいると委員長がすぐに明かりのスイッチの場所に行って明かりをつけた。暗い中にずっといたからまぶしいな。
「さあ、行きましょう」
「あ、ああ」
昨夜は近藤と幽霊騒ぎをしたが、今夜は委員長が相手なので警備ということではしゃぐことは許されないだろうな。
俺と委員長はとりあえず各教室を見回るため、階段を登った。