飃の啼く…第3章-8
「おそらく…己たちの武器には、心が宿っているのだと思う。」
「こころ?」
飃はうなづくと、私を背負って、もと来た道を戻り始めた。そしてその途中、こんな話をしてくれた。
世界には、様々な名剣伝説がある。アーサー王のエクスカリバー。ヒトラーも追い求めたというロンギヌスの槍。中国で、人身御供が炉の中に身を投じたことで出来たとされる干將と莫邪など…
そして、そのうちの一つに、自らの子に呪(まじな)いをかけて、その体内に武器を宿させると言う邪法によって生まれた剣の伝説もある。その呪いは、かけた者には死をもたらす諸刃の術だ。しかし、そうして生まれた剣は、邪を裂き、日輪の輝きの如く、振るう者とその周りの者に希望をもたらす。
取り出す方法はただ一つ、その者と共に戦うもう一人を選び、同じ呪いをかけること。そして、その者達を交わらせること。さすれば、生まれた武器は、彼らの意のままに、闇を払ってくれるだろう。
「そうだったんだ…」
飃の背中の心地よいゆれと温かさに眠気を覚えながら、ため息をついた。
「もう一つある。その伝説の中に、男は槍を、女は盾を持つ可(べ)しとあったんだ。だから己は、正直言うと不安になった。自分に問題があったから伝説と違う結果になったのではないかと…」
私は、自分の手の中の薙刀が、急に命を得たかのように感じながら、言った。
「この子たちが教えてくれてるんだよ。きっと…」
「うん?」
「私たちは、お互いにもっと…なんて言うのかな…信じあうとか、思いやるとか、そうやって絆を深めていくことで、この子達の本当の姿が見えてくるような気がするんだ。」
心がうずく。そしてなぜか、それは薙刀が喜んでいるからだということ、そして、飃も同じ感覚を味わっていることが解った。だって、
「それは…悪くないな。」と言うのが聞こえたから。
結局、私たちはそのまま駅のベンチで眠りにつき、早朝駅員に見つかってこっぴどく叱られた後始発で帰った。
真っ暗な空が、次第に青く染まり、日が昇るにつれて白から金、そして赤へと変わってゆく。誰もいない車内で、他愛もない会話を交わしながら、たまに黙り込み、同じタイミングで話し始め、笑った。そして、飃は、あの琥珀の瞳をきらつかせて、私を見た。何も言わず。
私はキスで答えを返した。
「家に着いてから、ね?」
家に向かって歩く間、飃はどんどんそわそわしていった。私のことをじっと見ている。私が目をあわすと、にやっと笑ってそっぽを向く。なんなのよ。もう。