飃の啼く…第3章-6
三日月が、くっと、細くなる。
生気を吸われるって、どんなかな。
痛くなければいいな。
飃に謝りたい。
そいつは、私のほうにゆっくりと近づいてきて、私の恐怖を味わうごとに細長く、口を歪ませる。
その口から、真っ黒な触手が伸びてくる。
せめて、目を閉じよう。
その時、風が、私のまつ毛を振るわせた。
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飃の心には後悔や悔悛など、もはや念頭に無かった。
早く早く早く早く…
巨大な目に追い詰められているさくらを見たとき、何故こんなにも心臓が痛く脈打つのか、それさえ考える余裕も、彼には無かった。
咥えた薙刀で、おぞましく卑しい触手を断ち切った。恐怖に震えているさくらの匂い。それが、飃の怒りに火をつけた。
瞬きする間に、狼から人間の姿に戻り、盾を掲げ、薙刀を構える。
―悪いが、今夜は己が使わせてもらうぞ、美しの長柄。
獲物を横取りした邪魔者に腹を立てる化け物。だが、邪魔者こそがご馳走だと知って悦んでもいる。
―己も嬉しいぞ、化け物。少なくとも、貴様なら数分間持ちこたえられるだろう。