絶世の美女は災厄の女神-5
「『レオフォールド』ごとき田舎王国、我が『ゴリドバ帝国』の敵ではないわっ! 同盟だか共存だか知らんが、戦いもせずに領土を維持しようなどと抜かす『ルナカイザー王』の腰ぬけなど取るにたらんぞ! 今こそ我が帝国の真の恐ろしさ、眼に物見せてくれるわっ! ガッハッハッハァ!!」
と、大きな馬に跨り、豪快にも自身の身長ほどもある剣を天高く掲げて、大笑いする大将閣下。進軍する幾万の兵達も、既にのこ戦い勝ったも同然と、雄叫びを上るのだった。
そして軍勢はその勢いを衰えぬままレオフォールド領へと進入してくるや、モトクーリ山の裾野に広がる草原にて集まり騒いでいる群衆を見て、将軍閣下も声を上げた。
「ほほぅ、田舎王国としては懸命であるな。我が軍を迎え撃たんと待ち構えていたかっ!!」
すると若い指揮官が空かさず言った。
「所詮烏合の衆、レオフォールドの軍隊など取るに足りはしないでしょう!」
「その通りだ! 我がゴルドバ帝国の進軍を遮るものなど有りはしないのだ! 我が無敵の軍勢が通りし後にはペンペン草一つ生えん! その恐ろしさ得とおもいしらせてやれ!!」
そう叫ぶ大将閣下を先頭に、進軍して来たゴルドバ帝国の兵士達も、陣形を整えつつ、轟々たる列を成して、雄叫びを上げながら一斉に、ナカッソーレの大草原目掛けて、山裾を勢いよく駆け下りて行ったのだった。
その頃リアキナモーカナはと言うと。
「はっあぁ〜〜あぁ」
大きなあくびをしながら、庭先に置いてある長椅子に踏ん反り返り、側(かたわら)にある丸いテーブルの上に置いてあった茶筒ほどもあろう大きな双眼鏡を覗き込んで。
「そろそろ先頭グループ辺りが、見えるかしらぁ」
と、自身の元へと馳せ参じて来るであろう人々が居るはずの、向かい側の山裾に広がる大草原へと、その眼を向けた。
「むむむ〜。なにやってるんだろうねぇ? あいつらぁ!」
するとどうだろう、何やら草原には幾筋もの黒煙が立ち昇り、まるで戦場のような有様の中、人々が怒突き合って戦っている姿が見えるではないか。そればかりではない。その遥か上空には、恐らく竜騎兵と思われる一団が、まるで要塞のような飛行物体目掛けて体当たりしている姿までが、眼に飛び込んで来るではないか。
「なんだぁあれっ!? 戦争でも始っちまったのかねぇ」
リアはそう思いながらも、持っていた双眼鏡をまたテーブルの上に置くと、またしても大きなあくびをして、頭をボリボリ掻きながら、家の中へと引き込んでしまった。
しばらくして。
リアはまた、入れたての温々(あつあつ)コーヒーの入ったマグカップを片手に持ち、品良くガーデニングされた庭先へと再びやって来ると。
「しっかし、何考えてんだろうね人間って種族わぁ。何かって言うと直ぐに戦争をしたがる。同じ種で殺し合いなんかすんなっちゅーの! まぁ〜あたしには関係ない事だけどね」
そんな事を言いながら、悠長にも再び庭に置かれた長椅子へと腰を降ろすし、自慢のコーヒーに舌鼓を打ちながら、人々の争う姿を高みの見物とシャレ込むのであった。
だがそんな他人事の戦争も、悠長に眺めているだけ、と言う訳にもいかなくなって来たりもする。争いの火の手が徐々にリアの家の近くにまで近づいて来ると。
「あらやだっ! なんだかキナ臭くなって来たわね」
やや青くなった顔を、引き攣らせたりもする。
そんな彼女の元へ、風に煽られたのか飛行船バルルーンと戦う騎士団のドラゴンが吐いたと思しき火の玉が、飛んで来るなり、リアの家の庭先に落ちたりもする。
リアは双眼鏡片手にコーヒーを啜(すす)りながらも、落ちた火の玉から弾け飛び、白いテーブルクロスに掛かって焦げ後を作るその火の粉を、忌々(いまいま)しくも思いながら指先でもみ消したりもしていた。
「距離が有るとは言え、一応とばっちりを食う前に守りの魔法でも掛けておこうかしらね」
リアはそんな事を呟くと、持っていた双眼鏡をテーブルの上に置き、先に広がる草原の方へと両腕を突き出して、指で空に円を書きだした。
そして。