君の羽根が軽すぎて―前編―-3
リコは何も喋らず首を横に振った。
「…そう。ってことは、元の色…か」
なんの感情もなかった黒が、悲しみの青で満たされ続ける。
そんなイメージが脳内で再生された。
「生まれつきなの?」
対して返答はあやふやだった。
首を斜めに振られたものだから。
「………」
「……………」
どういう風に言えばいいかわからないらしい。
「…生まれつきなんだね」
とりあえず、という感じで渋々と肯定させた。
しばらく経ってから、リコは歌いだした。
「あおいそら あかいそら くろいそら
ゆらゆらユレテ ごうごうユラレ なにもなくなり 刻キタル」
スローテンポな童謡の様に聴こえるけど、決して童謡ではない。と、歌うリコが悟っている。
途中、少しの間があったものの、すぐにリコは歌う。
「……リシュレーベル……ファナレーベル……ヒトレーベル……」
けれども、その歌は段々と歌じゃなくなってきた。
「………リシュ…レーベル…ファナレー…ベル……ヒ、ト、レーベル……」
テンポを無くし、ただの言葉となった。
リコが何を考えて歌っているのか、僕にはわからない。
わからないから、止めることもできない。
「……ソウヤ」
「…へっ!?」
『歌』の途中にいきなり声をかけられた為、僕は驚いた。
「ソウヤは、ヒトレーベル…?」
…なんのことだか、さっぱり。
というか、意味のわからない単語を述べられ単刀直入に聞かれても…。
「……ひ、ヒトレーベル、って…何かな?」
「………」
灰色の空。今現在のリコの表情はそんな感じ。
…まだ知り合ってから二日目だけど、やっぱりリコが何を考えているのか、僕にはわからない。
リコは僕の質問には答えず、諦めたかの様に。
もう一つ言えば、呆れたかの様に、別の歌を音楽室中に響かせた。
次の日にも来てみたら、今度は歌ってる訳でもなく、何か文字が書かれている紙をじっと見ていた。
…ここはどうするべきなんだろう。ゆっくり近づいて驚かすか、それとも普通に声をかけるか。
考えるまでもないか。
「今日は歌ってないんだね」
「っ!!」
心底驚いた様だ。今にも飛び跳ねそうで。
別に驚かした訳じゃないのになあ。
すると、こっちを見て
「……うぅ〜〜〜〜!」
威嚇……してるんだと思う。
目を凝らして見ると、瞳が潤んでいた。そんなにびっくりしたのかな。
「驚くとは思ってなかった。ごめんね」
それでも簡単には許してくれないらしい。
僕に飛びついてまったくダメージのないパンチを、腹筋部分に何回も喰らわしてくるのだから。なんというか、こそばゆい。
左手でポカポカと叩いてくるけれど、右手には、僕が来るまで、ずっと見ていた紙を握りしめている。
「ちょ、ちょっと待って。ほら、それ」
叩く作業を止めてくれて、ようやくその存在に気づいた。
「あ…」
どうして気づかなかった。そう自問してる様な表情をしていた。
「…少しシワができちゃったくらいだよ。伸ばせば大丈夫だって」
「……ん…」
肯定、かな?
そして急にその紙を僕に押しつけてきた。
「え?え?」
「……」
リコは俯いて、何も喋らない。
身長差ということもあって、リコがどんな表情をしていたのか、その時はわからなかった。
「み…見てってこと?」
「………」
黙ってても、頷かなくても、何故だか肯定している様な気がした。
「………」
沈んだ空気のままにしておくのも嫌なので、紙の内容に目を通す。