シスコン『第九章』-6
放課後
二人は体育館にいた。部活はもう終わっていて、外はもう真っ暗だ。
澄はバスケットボールのカゴを、ガラガラと押してきた。
「勝負はフリースロー。オレは三本外したら負け。お前は、三本入れたら勝ち。」
澄はバスケットボールを秋冬に投げ渡した。
「それだけじゃ、オレに終わりはねぇし、お前が絶対に勝てるゲームになっちまう。だから枷(かせ)をつけよう。」
秋冬はボールの感触を確かめる。
「オレは五本連続で入れれば勝ち、お前は五本連続で外すと負けだ。これでいいか?」
秋冬は微笑む。
「あぁ、それでいいんだな?」
「あぁ。」
澄はカゴからボールを一つ取った。
「先攻後攻、好きなほうやるよ。」
「じゃぁ後攻をもらう。」
「OK。」
澄はフリースローラインの一歩手前に立った。
「一本目。」
シュッ……パスッ
ボールはリングに触れる事なくネットを揺らした。
「流石だな。」
秋冬はライン手前に立つ。ボールを何度かバウンドさせた。
「じゃ、一本目。」
シュッ……ガンッ
ボールはリングに当たって、右に飛んでいった。秋冬はそれを見て溜め息を吐いた。
「二本目。」
澄はボールを持った。
シュッ……ガッ…パスッ…
ボールは一度ボードに当たったが、リングを通った。
「ヒュー。」
秋冬がパチパチと手を叩く。
「余裕だな、お前。」
澄が秋冬を見た。秋冬はボールを持った。
「余裕だぜ?」
「は?」
秋冬は微笑む。ライン手前に立つ。
「オレが五本も連続で外すと思ってんのか?」
シュッ…
ボールはボードに当たり、リングに当たり、リングの縁をくるりと一周回って、入らずに落ちた。秋冬は舌打ちした。
「ま、いいや。」
秋冬は澄を見た。
「このゲームはお前の意思で終われねぇ。お前が三本外すか、オレが三本入れるかで、ゲームセットだ。」
どちらに転んでも、澄は負ける。その筋書きを、秋冬は書いていた。
「勝負!?」
梓が言った。千里は何度もうなずく。
「体育館で…なんか雰囲気やばいんだ!」
梓は走り出した。
梓は練習で学校に残っていた。千里はパソコンで遊んでいた。
「優魅に報せないと…!」
梓は携帯電話を開いた。メールではなく、電話帳を開き、通話ボタンを押した。
「あの二人…馬鹿じゃないの!?」
千里も後ろから走ってくる。今千里を気にかける余裕は無い。
「もしもし優魅!?」
体育館まで、あと少しだ。