刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-7
「まったくもう…。
あ、そういえば刃梛枷先輩、一つ聞いてもいいッスか?」
僅かな弾幕の切れ間を縫って応戦していた眞燈瑠が問い掛けた。
「……何…?」
「疾風先輩のこと、好きなんッスよね?」
何気ない口調。
絶え間なく射出音が鳴り響く非日常的な空間の中で、際立って聞こえた。
「……そう…」
刃梛枷も素っ気なく、簡単に答えた。
「優しいからッスか?」
「……そう…」
「それじゃあ…」
一旦、銃声が止んだ。少しの間だが世界が静寂に包まれた。
先程までの喧騒が嘘のようである。
「何としてもこの二人を此処で止めないといけないッスね」
ほぼ同時に眞燈瑠と刃梛枷が教室から飛び出した。
間宮兄弟は既に新たな弾倉をセットしていたが、二人は構わず間合いを詰めた。
「さっきからただ逃げ回っていた訳じゃないッスよ!」
眞燈瑠がライターのような小さな筒を取り出す。
「香月の忍び名は《火筒》!」
筒の先端を親指で弾く。蓋が開き、さらに小さなボタンが露になった。
そして、ポチッとボタンを押した。
ドォンッ!ドォンッ!ドォンッ!ドォンッ!
双子を囲むようにして四度、足元が爆ぜた。
「扱うのは薬は薬でも、火薬ッス!!」
炎はほとんど上がらなかった。
だが、その爆発音にガラス窓がビリビリと鳴動した。
思わず、身を強ばらせる双子。
その間に眞燈瑠と刃梛枷はより一層二人に近づく。
双子も未だ強ばらせる身体を無理矢理動かして応戦する。
ズガガガガガカ、と幾重にも銃声が轟いた。
「刃梛枷先輩……。
これで…良かったんッスよね?」
倒れた双子を見て、ポツリと呟く眞燈瑠。
「疾風先輩は…優しいッスからね…。
昨日今日、出逢った自分でもそれはよく判ったッス…。
多分、疾風先輩は友達である、この二人を撃てなかったと思うッスよ…。
だから…自分達が…。
これで良かったんッスよね……刃梛枷先輩?」
眞燈瑠は呟いた。
背後に倒れている刃梛枷が答える気配は無い。
「これで…」
スゥーッと眞燈瑠の身体が傾いていった。地面に吸い寄せられるように倒れる。
「……良かったんッス…よね…」
最後にそう呟くと、眞燈瑠は静かに目を閉じたのだった。