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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-8

◇◆◇◆◇◆◇

駆ける。
次の角を曲がった先に屋上への階段がある。
疾風の装備は短刀とデザートイーグルと呼ばれる拳銃のみ。移動の妨げとなる大型銃器は置いてきていた。

「ま、待て…は、速すぎるぞ…」

後ろから楓が苦しそうに呼び掛けた。
その声に疾風は階段の下で立ち止まる。

「焦る気持ちも判らなくはないが、そのように焦っていては…」
「…ごめん」

疾風は下唇を噛みながら顔を伏せた。
何とか自制心を働かせようとするのだが、どうしても焦りが出てしまう。

「ここにおられましたか、隊長殿!」

いきなり暗闇から声がしたかと思えば、疾風達がやって来たのとは反対側の廊下から彼方が現れた。

「先刻の襲撃を受け、隊とはぐれてしまいましたが、放送を聞いて馳せ参じましたッ!
この不肖、田中彼方、一兵卒の身でありながら多大な迷惑をかけたことは十分に承知しており、また如何なる処罰も受ける所存でありますッ!」

ビシッと敬礼。

「判ったから…」

疾風はうんざりとした表情で言った。
そんな彼方のハイテンションぶりに先程までの焦りは消えたが、その代わりにドッと疲れが襲った。

「兎に角、行くぞ」

疾風は目の前に聳える階段を見上げた。
その先にあるはずの鎖は解かれ、屋上へと続く扉がキィキィ哭きながら、仄かな月明かりを溢していた。

◇◆◇◆◇◆◇

「ほぼ時間通りね」

深紅の軍服と印をはためかせ、霞が不敵に笑った。
そして懐から一枚の封筒を取り出した。
白い封筒が月光に反射する。

「これが欲しいんでしょ?」

指でそれを挟んでピラピラと揺らす。

「欲しかったら判るわよね?」
「…ああ」

疾風は短刀を構えた。それに続いて楓が腰に差した刀を、彼方がマシンガンを霞に向けた。

「3対1とでも思ってるの?」

霞が問い掛けた。

「あは…あはははは♪」

霞の哄笑が闇夜に響く。

「何が可笑しい?」
「別にぃ。兄貴が本気で思っているなら、かなりの楽天家だなって思っただけよ♪」
「何?」
「『夢より覚めよ。我が声に服し、我が意思に従え』」

軽薄な霞の声が一転して厳かなものになった。


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