刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-5
◇◆◇◆◇◆◇
一同が廊下に出た途端、疾風が小銃を構えた。
双眸は鋭く、闇の先を睨み付ける。
疾風の並々ならぬ態度に他の者達もいつでも動けるような態勢を作った。
すると、ゆっくりと闇の中から二つの人影が脱け出してくる。
霞の側に控えていた〈KK〉という二人組だった。
『あーあー、マイクテスト、マイクテスト』
突然、スピーカーから霞の声が流れた。
『こほん。兄貴、聞こえてる?』
「…霞」
『感度は良好みたいね。その二人に取り付けた送信機から兄貴の間抜けな声が良く聞こえるわ』
楽しそうな声がスピーカーを通じて静かな校内を駆け巡る。
「何故、お前がそこにいる!?」
霞が現在いると思われる放送室には、元々、大会の管理委員達がいたはずだ。
『いちゃ悪い?私、この人達とすごく仲良しなんだけど。ねぇ?』
『はい。それはもう親友ですよ。
あ、それはそうと霞さん。先日は黄金色のお菓子、ありがとうございました』
「…つまり、お前らは最初からグルだったってことか。
それなら、あの火力の差も納得がいく」
『忍たる者、ありとあらゆる可能性を疑え、って教わらなかった?』
クスリと霞が笑った。
『でもね、一つだけ言っておくけど、私は楽して賞品を貰う気は無いから』
何気ない口調で霞が付け足す。
『私にとって賞品は付加価値的なモノに過ぎない。
私が一番望むモノ。
それはね、兄貴を地に這いつくばらせることよ』
今までのせせら笑いのような響きが消えた。
代わって、その声に含まれるのは真剣さそのもの。
『兄貴。“一応”、屋上で待ってるわ。
二人共、後よろしく』
「Yes」
「Sir」
スピーカーが沈黙するのと同時に眼前の二人が外套を脱ぎ捨てた。