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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*last*-1

…暗い。
「どうしようか」
矢上の声がすぐ隣でする。姿は薄らとしか見えない。
「ふっ。どうしよっか、本当にね…」
あたしの声は自分でも驚くほど低く、この暗く狭い空間に溶けていった。


文化祭終了後、あたしは引っ張られるがままコテージにやってきた。
「ね、ねぇ。明日学校だけどいいの…?」
あたしはガッチリと肩を組んでいる好美に聞く。だがもちろん返ってくる答えは
「いいの、寝ないから!」
だった。
それなりに予想は出来たけどまさかこんなにもあっさり返答するとは思わなかった。しかも、さも当たり前のように。
まぁ、それも好美らしいと言えばらしいか。


あたしたちがコテージに着くと、既に何人かが中にいて、十畳ほどある畳み部屋の真ん中に置かれた大きな机には、どうやって手に入れたのかたくさんのアルコールが溢れていた。また、それを囲むようにつまみやお菓子が無造作に詰まれていて、乗り切らなかったものはテーブルの下に放置されていた。
こんなにたくさんどうするんだろうと思ったけれど、あたしたちにとってみれば少ないのかもしれない。


それから30分もすると全員が一つの部屋に納まった。納まった?いや、決して納まったわけではない。
正月に食べるお節料理のように、あたしたちはぎゅうぎゅうに詰められてる。
何人かは座る場所がなくて立っているし、押入を開け中に入っていた布団を投げ出しそこに座っている人もいる。ちゃんと畳に腰を下ろしている人なんて半分もいない。
ちなみにあたしは実行委員ということで座ることを許された。矢上も同じでちゃっかりあたしの横に座っている。
「はい、皆さんお酒は持ってますかぁ〜!?」
好美が声を張り上げる。
それに合わせて「持ってる」とでも言うように、みんながコップを少し上に挙げた。
「では!乾杯を音羽と瑞樹にやってもらいましょう!」
「えっ!?」
急に自分に振られてあたしは驚いた。だって、今の勢いなら好美が乾杯の音頭をとると思うじゃん。
「そんな急に言われても、ねぇ矢上?」
あたしは矢上に助け船を求めた。が
「本当!?音羽ちゃん、何て言う?」
とニコニコ笑いながら、ちょっとウキウキ気分で興奮していた。
「ノリノリかよ!」
「だってオレこんなん初めてなんだもん!すっげぇ嬉しくて」

――ああ、そうだった。

矢上はずっとこんな雰囲気知らなかったんだ。あたしにとっては当たり前のこの空気を、矢上は今までずっと知らなかった。
何せ友達と楽しんでいる自分自身にさえ、抵抗を覚えている時期もあったほどだもん。
だから矢上はあたしたちにとって当たり前の楽しさを幸せに感じれるんだ。
今みたいに…。
「そっか。じゃああたしはいいから矢上が乾杯しなよ。いっぱい言いたいことあるんじゃない?」
あたしがそう言うと矢上はこくんと頷き、立ち上がった。
「え〜っとね、何から言おうかな…」
矢上はちょっと目を伏せ、頭を掻く。
しばらく「えっと…」を繰り返してから
「あのね」
と真面目な目付きになった。
「今までごめん」
矢上が深く頭を下げた。しんと静かになる空間、みんなの真剣な目線が矢上に向けられる。
矢上はゆっくり頭を上げた。


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