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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*17*-2

「よし矢上!お前客引きしてこい」
樋口がびしっと矢上を指差す。
すると矢上は
「はーい」
と元気よく返事をした。そして落ち込むあたしの腕をぐいっと引っ張り
「音羽ちゃんも一緒行こう!」
と笑った。
「あ、いいよ。あたしなんか…」
矢上の腕を振りほどこうとするけれど、あたしを掴む力がますます強まった。
ふっと矢上の顔が近付き、あたしの耳元で矢上の唇が動く。

―っ!?

あたしの顔は真っ赤になっているに違いない。自分でもよく分かるほど頬が熱い。もう何も考えられなくて、あたしは矢上に引っ張られるように教室を出ていった。


それからのあたし達の喫茶店は大忙しだった。
矢上を女の子だと本気で勘違いしたおバカ共や、矢上ファンの女の子や、噂を駆け付けたサボテン愛好会の会長さん及び会員の皆さんや、偽鹿の剥製を見にくる美術部員さんなんかでごった返した。
剥製に関しては美術部員だけではなく、一般のお客さんにも大人気で「キモ可愛い」ではなく「キモリアル」という単語が出来てしまうほどだった。ちなみに剥製と記念撮影する小学生もいた。
もちろん本命の料理だってとても好評だった。おじいさんが作り方を聞いてきたけれど、あたしは「秘密です♪」と営業スマイルをした。だって、適当に作っているからレシピなんぞありません、なんて口が裂けても言えるか。
でも確かに、あたしも少し味見してみたけれど適当とは思えないほどおいしかった。


喫茶店が混み始めてから時間が過ぎるのが早い。ふと時計を見ると終了5分前だった。
しかしなかなか人は減らず、結局お客さんが全員帰ったのは30分ほど過ぎてからだった。
「終わったぁぁー!」
クラス内に歓声が上がる。
あたしもうーんと思い切り伸びをした。
「ぃよっし!売り上げ数えんぞ」
樋口が売り上げの入った箱を会計係の原田に手渡す。それを受け取ると、原田は自分のすぐ近くにある椅子に腰を下ろしお金を丁寧に数えだした。


原田の周りにあたし達は群がっている。目線は原田の手元。あたしの隣で矢上も真剣に見つめている。
「…六…七…八…九…丁度五万円っっ!」
原田が千円札の束をパンッとテーブルに叩きつけると、ぎゃーっという歓声よりも悲鳴に近い声が教室内にとどろいた。
「売り上げ五万達成したぞ!」
原田の声が響く。
あたし達は誰彼構わずハイタッチをした。
「はい、約束の一万円と精算表」
原田があたしに千円札10枚と精算表を手渡す。
「確かに」
全く…。呆れてしまうほど完璧な精算表だ。売り上げがぴったり一万円になっている。
あたしはそれとお金を封筒に入れた。
「じゃあこれは生徒会に返すとして、残りの四万円は打」
「打ち上げ行くよー!」
好美があたしの言葉を遮る。あたしは「このやろう…」と思ったけど、テンションが急上昇中のクラスメイト達は「うおーっ!」と言いながら嬉しそうに騒いだ。
あたしはみんなの興奮ぶりを横目に
「とりあえず片付けしなきゃ!」
と唱えたが大方無視。
好美と樋口に
「そんなん後々!」
「明日でいいっつーの」
と両腕を捕まれズルズルと引き摺られていった。
その時ふと脇を見ると矢上もあたしと同じ様に両腕を捕まれていた。
そして苦笑いをしながら
「大丈夫だからね、オレ一人で歩けるって!ね?逃げないって」
と女装のまま言っているのを見て、あたしはおとなしく引き摺られようと思った。
もう一度矢上をちらっと盗み見る。すると呼び込みに行く前に矢上があたしに言った言葉が矢上の声と共に頭の中で響いた。そして、あたしは再び紅くなってしまった。


『音羽ちゃんすげぇ可愛いよ、似合ってる。だから自信持って!』


誰にも気付かれないようにあたしは両手で頬を押さえたから良かったけれど…。


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