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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『5』-2

住宅街の一角にある、鈴の家についた。
表札には朝霧の字があるし、周囲にはモダンな造りの家が多い中、和風な家だから一発でわかる。
木造りの門なんて、こいつの家以外に見たことない。
門の前で止まり、鈴を降ろす。いつもはここでサヨナラだ。
鈴が家に上がるよう、誘うが俺は拒否してきた。
「さぁ、どうぞ」
当然のように、鈴は門を開いて、手で入るように促す。
「……いや、今日はここでお暇する」
メットのバイザーを上げながら、俺はそう返した。うん?
鈴が若干怪訝な顔をした。珍しいな。
「……いつも断るのね」
う……。
「どうして、そんなにいやなの?私、何か気に入らない事、したかしら?」
うぅ……。悲しそうな表情が突き刺さる。
「私は、あなたが好きよ。そして、私を好きになってもらいたい。でも、いつも私からばかり……」そこまで言われて、俺は初めて気づいた。
「もっと私を見て欲しい。もっと知って欲しいの」
俺は何も、鈴の事を知らない。鈴の好きな料理も、音楽も趣味も特技も。誕生日も血液型すら知らないじゃないか。
どこの高校で、どういう生活を送ってたかも聞いてない。鈴の家族だって、お母さんがいること以外知らない。
もうちょっと、知ろうとすれば。気にしてみれば、すぐにわかる事だ。なのに、俺は……。
「ねぇ、一太郎」
全然、誠実じゃなかった。向き合おうとしなかった。
少しは考えてるつもりだった。
『好きになったら告白する』みたいなカッコいい事言ったくせに。
鈴が俺を好きなのを良いように利用してただけじゃないか。
ただ、状況に流されてただけじゃないか。
そう思うと、自分が酷く情けなくて、嫌になった。
「……っ」
「………、泣いているの?」
優しい鈴の声が、さらに自分を嫌にさせる。なのに、凄く心地よかった。
「自分が情けなくて……。全然、誠実じゃなかったな。お前の気持ち、わかってたのに。俺は全然お前を知ろうともしないで、ただお前の気持ちを利用して、流されてただけだったんだ。……やな奴だな」
努力すらしなかった。普通なら、見限られたって文句なんか言えない。なのに、鈴はまだ俺を見てくれる。
努力したいと思った。
虫が良すぎるのはわかってるけど、惜しいと思った。
多分、今なら努力できる。今までのどんな事より努力できる。そして、しなきゃならない。
「これから、鈴の事を教えてくれ。俺は、お前を知りたい。スッゲェ知りたくなった」
ここで拒否されるなら自業自得だ。そこまで何もしなかった俺が悪い。
「……」
鈴は無言の笑みで、俺を門へといざなった。


すっかりご馳走になり、食後のお茶とデザートまで頂いて、俺は帰宅した。
鈴の家から俺の家までは30分もあればつく距離だ。住宅街だし、もういい時間だからできるだけエンジン音を抑えて、ガレージへとバイクを入れる。
エンジンを切ってハンドルロック。キーを抜いて、玄関へと歩く。
どうせ閉まってるだろうし、えーと…………鍵々。
ガチャ……。
あれ…開かない。2つとも閉めたのか?
ガチャ……。
ありゃ、まだ開かない。……まさか開いてたのか?
閉めたかもしれない鍵を2つとも開けると、ドアは何事もなく開いた。
おっかしーな、あのおふくろが開けとくことなんてなかったのに。
珍しいこともあるもんだ、と思っていたが、この時玄関をよく見ればすぐに理由が分かったはずだった。
が、俺は見ずに靴を脱ぎ散らかしてあがる。
リビングの明かりはついてる。ドアを開けた。
「ただいま……って、春子!?」
リビングのテーブルで突っ伏してるのは紛れもなく春子だった。そして、春子の他には晩飯とおぼしき代物が。


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