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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『1』-1

我が大学には、それはもう綺麗な女生徒がいる。
170は優に超えようかという程の身長にスラッとした体型。理知的な顔立ちに艶のある髪、儚そうな雰囲気。素でモデルになれそうだ。
その上、所属する文学部一の才媛であったりする。また、銀の鈴が奏でたかのような綺麗で透き通るような声がまた良い、とは周りの彼女に恋い焦がれる男たち談。
まぁ、確かに彼女に恋い焦がれる理由は解る。綺麗だし。
でも、俺にとっては高嶺の花にして天上の星。恋い焦がれるだけでも罪になりそうだ。まぁ、焦がれないけど。
彼女とは数回話した事はあったが、それこそ事務的な事が半分、残りの半分は挨拶が一言だけ。これで好きになれというのも無理だ。女の子は容姿だけで好きになるもんじゃない、というのは俺の持論である。
そんな自分で言うのもなんだけど、俺を『好き』になってくれる女性がいるとは思えない。えぇもう本当に。
別に殊更に不細工じゃないけど、とある身体的欠点を持っているためか、彼女が出来た試しがない。さっきの持論も欠点のコンプレックスの『おかげ』で出来たようなもんだ。全然感謝してねぇけど。
おっと、そんな俺の名前は夕凪 一太郎。文学部二回生で今まで平凡に生きてきた二十歳。
とりあえず主役って事で、ひとつよろしく。


大学の学食は多分どこの大学に行ったって、昼食時になったら満員電車のごとく、混沌の坩堝になるのは想像に難くない。
そんな中でラーメンと牛丼(特盛り)とカレーを食べながら、死ぬ思いで取った場所で話す俺ら。
それに対して、座る所のない奴らの恨めしそうな顔。うーん、優越感を感じるぜ。
負け犬は床で食べるが良い!!……なーんてな。
「……で、履修登録はどうした?」
「僕はとりあえずフル単だ」
「俺も一応フル単にしといた。で、郭は?」
「俺?俺は18」
見ての通り、俺らは履修登録について話している。
春学期が始まり、履修登録しなきゃ授業を受けても単位をもらえない。この話題は学生達にとって、この時期で一番ホットな話題だと言える。
「また18かよ?」
「郭、お前大丈夫か?」
「だぁってろ。毎学期18取れたら、卒業できんの」
そう言って、彼はラーメンを啜る。
今、郭と呼ばれた奴は、俺の友人Aである片山 郭(くるわ)。経済学部二回生。サッカーのスポーツ推薦で入学したらしい。実際、こいつは大学でも名の知れたプレイヤーだ。
二枚目だけど、お調子者で楽観的な所が二枚目半や三枚目にこいつを貶めてると常々、俺はおもう。基本的にはとても良い奴だけど。
「18単位取れたらと言いながら、去年の春は11、秋は13しか取れなかったと僕は記憶しているが」
「う、うるせー……。相変わらず痛い所突いてくんな」
「お前の為だ」
で、今、郭と会話しているのが友人Bの北見 泰明。医学部の二回生。
常に冷静沈着。彼の口から出る言葉はいつも的を得ている。しかも現役で医学部に入ると言う、頭の良さ。
周りからは近寄りがたい印象を持たれてるけど、実際は友達思いのとても良い奴だ。今だって、言葉はクールだけど郭の事を本気で心配している。
しかし、大病院の御曹司が学食で牛丼つついてるのって、結構シュールだよな。
「で、イチタはフル単か」
「イチタは去年も、両方ともフル単取っていたな」
「ん〜まぁな。登録はとりあえずフルまで入れたけど、今回は20取れたら良し、って感じだな」
『イチタ』は俺のあだ名。『一太郎』じゃ呼びにくいって、いつの間にか郭がつけていた。とりあえず気に入ってはいる。


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