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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『5』-1

「さぁ、帰りましょう!」
相変わらずの電波時計並みに正確な体内時計で、俺を迎えにくる。
時間以外にも、なんか電波受信してそうだ。
同時に相変わらず、俺は教室中から発信される怨念を受信する。
頼むから、すぐには来ないでよ……、あぁ、胃がっ。
「何を考えてるの?」
駐輪場へと歩く道、横から鈴が聞いてくる。
「いや、別に」
鈴が来る度に胃が痛くなるなんて、言えるかっつーの。
「……そう」
おや、今日はあっさり引くなぁ。いつもは無理にでも聞き出そうとするのに。
まぁ、いっか。深く考えても、どうせわからん。
人の気持ちはやっぱり聞かなくちゃわからんし、聞く気もないからな。
「今日も乗ってくのか?」
話題を変えるために、俺は鈴に聞いた。
最近、時間が合う日はバイクで鈴を送ったりしている。流石に迎えには行ってないが。
「えぇ。今日こそは、寄っていってね。母が本当に会いたがってるから」
送る度に、鈴はお母さんに会わせたがる。お母さんも会いたがってるらしい。
何か会っちゃうと、もう帰れそうにないから勘弁。
「……気が向いたらな」
期待に満ちた顔をした鈴に面と向かって断れない俺の臆病者。
そんな話をしつつ、駐輪場についた。
たくさんあるバイクの中から愛車を探す。置いた場所は覚えてるが、こうもあると迷ってしまう。
え〜っと………あったあった。
銀色のタンクに世界一のバイクメーカーのロゴが入ってるネイキッドバイク。前にも言ったが、中古で二十万だった。
鈴の家までは、だいたい30分ほどのドライブだ。
メットを被り、シートに座ってバイクを支える。その後に鈴が後ろに乗った。
エンジンをかければ、相変わらず良い音がする。今日も好調だ。
「しっかり捕まってるから、安全運転でお願いするわ」
「いや、そんなに密着せんでも……」
腰に手を当てるぐらいで良いんですよー。
安全運転してほしいなら、集中力が乱れるような密着感を醸し出さないでっ!
しかし、鈴はどこ吹く風だ。
「胸が当たるぐらい、大したことじゃないないわ」
「大したことだっ!」
長身でモデル体型の鈴は、まぁその部分も標準以上にふくよかなのだ。健全な男としては、集中力を乱すに十分値する。
こいつは自分の容姿が及ぼす影響を絶対自覚してない。危うい奴だ。
「それは、このままでは私に劣情を持ってしまうから、拒否してるの?」
何を嬉しそうに変な事言ってんだっ!?
「だったら?」
努めて平静に返す。
「嬉しいわ。私を魅力的な女性と見てくれてるんですもの」
そんな嬉しそうにされると、なんか自分が情けなくなってくる。
「何なら、このまま家に送ってくれなくても良いわ」
な、何を言い出しますか、この人は?
「どーゆー意味だ、そりゃ」
「このままラブホテ「わぁっ、ストップストップ!ジャストモーメントォッ!!」
サラリと俺の理性を崩そうとするが、俺はそこまで獣じゃない!
周りに少しは目を向けようぜ!
人いるから、人がっ!
「そういう事は軽々しく言うな」
「あなたにしか言わないわ。私にはあなただけ」
はぁ、何にせよ。俺はそういう事は『まだ』しない。『まだ』が付いたのは俺が健全だからだ。疑いなくそうだ。
「まぁ、楽しみは後に取っておくとして、行きましょうか」
そう言って鈴は密着してくる。
この後、教習所で習った正しいタンデムの仕方を小一時間、鈴に教えてから発進する事になった。


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