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台風バンザイ
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台風バンザイ-2

「これ、下さい」
俺は200円の大盛りカップめんと、150円のペットボトルのコーラをさっさと選び出してレジの前に置いた。今夜、台風直撃の夜の夜食にする予定だ。
 店員は商品を受け取ると、だるそうにレジを打ち始めた。
「こんな天気の日も大変ですね」
 と俺は少し同情してレジ打ちをしている店員に声をかける。
「はは、仕事ですから」
 店員は少し表情を崩して、それだけ答えた。会計を終えて、
「ありがとうございました」
 と店員は少し頭を下げた。こんな日でも店員は仕事と割り切ってやっていた。バイトをしていた俺にはよくわからないが、仕事とはそういうものなのか。
俺は少ししんみりした気持ちになってコンビニを出た。風は相変わらず強く、時々俺の足元をふらつかせた。
 家に着き、ドアを開けると洗面所から声が聞こえた。
「あら、兄さん」
 俺の妹がひょっこりと顔を出した。部活が終わって、学校から帰っていたらしい。妹は強風でくしゃくしゃになった髪をくしで整えていたところだったのだ。
「外はすごい風だったわ。駅から家に歩くのも大変だったのよ。ところで兄さんなんで外に出かけてたの?」
「コンビニに行ってたんだよ」
 妹は眉をひそめた。
「コンビニ?」
「ちょっとカップラーメンを」
「こんな日にわざわざそんなものを、兄さん一体何を考えてるの?」
 妹が俺を凝視する。確かに台風の日にわざわざカップラーメンを買いに行く男など俺ぐらいだろう。怪しむのは無理もない。
「そんな変態を見るような目で俺を見るな」
「だってこんな日にコンビニに行こうとするなんて変態だわ」
ひどい妹である。このままでは兄の威厳が・・・。
「ほら、こういう日ってなんかロマンチック」
「ロマン? なにがロマンなの? 最悪の天気じゃない。おかげで髪はめちゃくちゃよ」
「もういいよ。わかった。部屋にさっさと帰りなさい」
このワクワクがわからないなんて、まったくロマンのない女だ。



その日の夜―――俺たち家族は食卓を囲んでいた。
母さんは今日は友人と旅行に行ってしまったので、妹、父さん、俺の三人だった。
「パパ、聞いて。兄さんったら・・・」
「うるさいうるさい。さっきのことは忘れてくれよ」
明らかにコンビニのことを言いそうだった妹に俺が静止。しかし、
「うん? なんかあるのか?」と父さん。
「兄さん、この天気の中どこに行ってたと思う? コンビニなんかにわざわざカップめんを買ってきてたのよ?」
「そんなの人の勝手だろうが」
「それもそうだけど、なんか別の目的でもあったんじゃないかな、と思って」
「そんなのねーよ。いいだろうが。たまの台風の日ぐらい。お前にはこのワクワク感がわからないのかよ!」
「こらこら、そんなにはしゃぐな。お前らみたいな巨大台風を経験したことない奴にはわからないがお父さんのときは大変だったんだ。なんせ、家がいつつぶれてもおかしくない状況にあった。そんな中、お父さんは竹林の中に命からがら逃げて言ったんだからな。まさに命がけだったんだ」
「へぇ」
 と俺はうなづく。
「だから、そんなにお祭り騒ぎみたいにするんじゃないぞ。台風はとんでもない災害なんだからな」
「そうかなぁ」
父さんに体験談を語られてもピンとこず、俺には台風がスリルを呼ぶ一大イベントにしか思えなかった。
「パパの言うとおりよ。兄さんは単に学校を休みたいだけでしょう?」
「それもあるけど・・・だぁーもううるさいな。人の勝手だろうが」
俺のロマンは父さんにも妹にも理解してもらえなった。ちくしょう、こうなったら俺一人で楽しんでやるよ!


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