後輩との秘め事…1-1
「社長…」
「何だ?」
この人に。
いつの間に?
「彼女できたんですか?」
その言葉をあたしが言った瞬間、社長金澤雪人(かなざわゆきひと)はびっくりしたようにこちらを見た。
「…何だって?」
「その顔は図星ですね。
…だって、社長に特定の人の女の香水の匂いがつくことなんて今までなかったのに」
「梨絵さ〜ん」
社長室から出てきたあたしに手を振るのは坂下麗(さかしたれい)で秘書課の後輩。
「坂下、仕事ありがとう」
「いいえ」
ニコッと坂下が笑う。
今日はあたしが社長の友人と仕事があったために、いつもは社長の仕事を補佐する坂下があたしの仕事をやっていた。
「もう7時ね…ご飯でも一緒にいこうか?
仕事終わったのよね?」
「本当ですか?」
嬉しそうにあたしを見て言う。
本当に可愛い後輩。
…ん?
この匂いは…
社長についてた香り。
あまり甘くないけど、優しくて可愛い坂下にとても似合う匂い。
そうなんだ…
あたしは社長の相手が坂下だったことに対して何となく安心する。
だけどね…
「じゃいこっか」
あたしは悲しさを隠して笑ってそう言った。
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「え?好きな人に恋人がいつの間にかできてたら?」
「うん…」
次の日の夜、残業をしながらあたしは何故か男の後輩にそんなことを愚痴ってた。
「松本さんも恋してるんですね〜」
「恋くらいね…」
自分のデスクに散らばった書類を集めながら言った。
坂下は確かに仕事もできるし、そして可愛い。
だけどどうしてあたしじゃないかはわからない。
あたしだって側にいた。
なのに…
「真鍋、帰ってていいわよ。
あたしこの書類を社長に渡してくるから」
「はーい」
あたしが社長室に向かうと、ドアが少し開いていて隙間から光が漏れている。
本当ならノックをするべきところだけど、あたしは中を覗いてしまった。
「…やめてくださっ…あ」
…!!
その光景は、無理矢理な行為にしか見えなかった。
服も脱がさず、肉と肉がぶつかり合う音だけがする。
デスクの上に手をつき、犯される坂下。
「やめて下さいっ…まだ梨絵さんがい…ますっ…」
…悔しい。
どうすればここにいるのはあたしだったの?
もう、嫌…
あたしは社長…雪人とは高校の同級生。
だからこの会社に入ってからもプライベートでは仲が良かった。
何度か夜を過ごしたこともあった。
だけどそれは雪人にとっては大人のつきあいであって、何でもなくて…
ずっと側にいたのに…
あたしは渡せなかった書類を持って、秘書課に戻る。