Happy Birthday-2
―貴之1歳。
笑うと生えたばかりの前歯が見えて可愛い。
これからもっと、いろんな表情を見せてくれるはず。
楽しみ。―
はぁ…。
僕は河原に座って、ため息をついた。
大切にしていたスパイク。
初めてシュートを決めた試合で履いてたやつだった。
いつもコーチに
「お前は、走り回るばっかりで、コントロールができてない!!」
って言われて、悔しくていっぱい練習して…。
やっと、シュートが決められたときは、すっごく嬉しかった。
あのシュートが決められたのは、あのスパイクのおかげだって僕は今でも思ってる。
軽くて僕の足にピッタリで、あのスパイクを履けば、めちゃくちゃ早く走れるし、ボールが足に吸い付いてくるみたいだった。
はぁ〜…。
11月になって、寒い日が多くなってきたけど、寒さなんて少しも感じなかった。
家にいるよりは、ここにいる方が何倍もマシだと思う。
立てた膝に顔を思い切り埋めた。
目を押さえていないと、今にも涙が溢れてきてしまいそうだ。
押さえすぎて、瞼の裏側がチカチカする。
それでも構わず押しつけていると、チカチカの中に何か見えてきた。
なんだ??これ??
お母さんと赤ちゃん??
お母さんの方が何か言ってる。
「…き。た…ゆき。」
なんて言ってるんだろう??
でもすごく優しそうだ…。
「どうしたの??」
急に声をかけられ、振り返ると目の前に女の人がいた。
…母さん!!
目の前に立っていたのは、母さんだった。
僕を心配して迎えに来てくれたのかな??
母さんの顔を見た瞬間、僕は泣き出してしまった。
せっかく我慢してたのに…。
男が泣くなんて、カッコ悪い。
「どうしたの??何で泣くの??」
'何で'って、僕が泣く理由なんて決まってるじゃないか。
「なんでそんなこと言うんだよ!!母さんがスパイクを…。」
そこまで言って、僕は違和感に気付いた。
僕の家がない!?
ここからなら、25階建てのマンションが見えるはずなのに。
なんで!?
ずっと'ここ'にいたはずなのに、見えてる風景が違うなんて…!!
僕はパニックになり、思わず走り出した。
でもどこから見ても、マンションは見えない。
あんなに大きな建物が、一瞬でなくなるなんて、考えられない!!
河原を走り回ったあと、元の場所に戻ってくると、さっきの女の人がまだいた。
その人を見た瞬間、僕は我慢できず大声で泣き出してしまった。
男が泣くなんて、カッコ悪いなんてもう言ってられない。
ここはどこ??
僕はなんでこんなとこにいるの??
家がないなんて、これからどうすればいいの??
「ちょっ…。僕??大丈夫??どうしたの??」
女の人が必死に話しかけてきてくれるけど、そんなのに構っていられない。
だって、僕の家がなくなっちゃったんだ。
僕はどうしたらいいんだろう。