飃の啼く…第2章-5
「だ、だ、だって、ここは学校だし……」
「誰もいない。」
飃は、私が座っている机の両縁をつかんで、私のほうに屈みこんできた。飃のにおいが、私を包みこむ。
「で、でも、見回りが…ちょっと!耳は…駄目だって…ば……ぁ…」
飃は左手で、私の頭を抱えるようにして私の髪をかきあげ、ねっとりと耳を舐めてきた。私の下腹部は素直に反応してしまう。
右手は、私の胸の辺りをまさぐっている。きっと、飃も、私が感じているのを知ってる…
「人間はどうしてこんなものをつける?」
ブラのことだ。
「ぁん…たみたいなスケベから身を守るためよ……」
「障害があるほど、男は執着する。」
耳元でささやきながら、ブラのホックに手を伸ばした。
「逆効果だ。」
「飃…?」
「ん?」
「キスして…?」
飃の唇が私の息を奪い、裸になった背中を、優しくさすってくれている。ああ、この人は、さっきのことを忘れさせようとしてくれているんだ。と思った。右手で、私の頭をなでてくれたとき、私は不覚にも泣いてしまった。飃は、何も言わずに私を抱きしめて、そっと頭をなで続けていた。そして、涙がおさまってくると、私は今まで一度もしたことが無かったことをした。
自分から、飃に口づけたのだ。彼は、一瞬びっくりしたみたいだった。髭が何だかくすぐったぃ…飃は、私を机の上に座らせたまま、胸の頂上を舐めてきた。
「ぁ…ん、ふっ……」
声が漏れ始める。飃は、たまに鋭い牙で噛んだ。「っ…あぅ…っ」
片手で私の髪を掴み、何度も噛み付いてはやさしく舐めた。それは、妻の小さな不貞への仕置に思えた。
「さくら……?」
「ぅん…ぃぃょ…。」
教室の机の上では、正常位は難しかった。がたがた音が鳴ってしまうのだ。すると、飃は簡単に私を持ち上げた。
「ひゃう…っ」
これなら静かだろ?とでも言いたげに、ちょっと微笑んだ。私は恥ずかしいのと、声を出さないようにしたいので、飃の肩にしがみついて顔をうずめた。
「ふっ…っぁ……」
飃の息が、ちょうど私の耳にかかる。彼も感じてくれている証拠。二人がひとつになっている証拠だ。
「ぁ、ぁぅ…ぁ…」
声を、抑えきれない。ペースが速くなる。
「ぁ、ん…っ、ぅ…飃・ぃ、きちゃぅ…ょ…ぉ」
「さくら…っ」
「……っ!」
今度は、しっかり目覚めていた。私の中が、飃を締め付けるように痙攣し、それに答えるように、飃が私の中で大きく脈を打った。
誰もいない真っ暗な教室で、聞こえるのは、お互いの激しい息遣いだけ。汗ばんだ身体が、珍しく涼しい夜の空気に当てられて、気持ちよかった。私たちはしばらく抱き合ったまま、何も言わずに、何も言い出せずに、窓の外を見つめていた。そして、どちらからともなく、キスをした。
すると、さっきまで静かに横たわっていた薙刀が、淡い光を発し始めた。