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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃(つむじ)の啼く……-1

私の物語は、いつも雨から始まる。


私は現在高校2年の薙刀部副部長。名前は八条(やじょう) さくら。薙刀歴はかれこれ12年。だって自宅が薙刀の道場なんだから、しょうがない。一方、こんな事実は私の「スポ根」キャラに反するから誰にも言えない。部屋の机の奥深くに、中学生の頃から書き溜めた何編もの物語が眠っている事は。


そして、その日、私を巻き込んだ物語も、やっぱり雨から始まったのだ。

跳ねる泥水。傘がわりのリュックは全く意味をなさないで、走る私の頭の上でバウンドしてる。この季節は、夜でも蒸し暑い。部活帰りで汗っぽいにシャツが張り付いて…気持ち悪い…。
「…あれ?」
あそこにうずくまってるのは…
「犬…」
にしては大きい。分厚い毛皮は泥や血で汚れていた。怪我をしているのだ。どうしよう。うちのマンションはペット禁止…。でも…。
「君、静かにしてられるよね?」すると、「彼」は顔をあげた。驚いた。これって狼じゃない?犬には詳しくないけど、絶対そうだ。彼は、肩で息をしながら、金色の目で私を見据えて、弱々しく尻尾を振った。
このマンションには、高校進学と同時に引っ越した。高校が実家から遠くて助かった。少なくとも、マンションでは竹刀を持たなくて済む。管理人は、有難い事に席をはずしていたので、薄汚れた巨大な狼を背負ってエレベーターに乗るのを見られずに済んだ。
狼の怪我は、擦り傷程度だったけれど、身体中に殴られたような打ち身があった。犬同士の喧嘩では無い。犬は拳で殴らないもの。とにかく、まずは清潔にしてあげないと。ついでに私もお風呂に入ってしまおう。何だか、子供の頃に夢見た、犬を飼う夢が叶ったみたい…それに、この狼は全然怖くない。何だか知性すら持っているような…
「また空想…か…」自嘲的に呟いた時、風呂の準備が出来た。「さぁ!共に入ろうじゃないか、狼君!」
暖かな湯で、狼の体を洗うと、おびただしい量の血が流れてきた。全て戦った相手の血なのだろう。すっかりきれいになると、彼の毛皮はまるで……まるで、他のものに形容できない程、銀そのものだった。凛々しい顔は王者の風格さえただょ……いけない…また空想だ…しっかりしろ、自分!
私も服を脱いで、浴室に入った。浴室が狭いから、狼君は湯船の中だ。すると、いきなり狼君が立ち上がって―ゆうに私の身長ほどある身体で―のし掛かって顔を舐めてきた。私は足を滑らせ、浴室の壁に嫌と言う程頭を打った。そのせいだろう、幻を見たのは。『狼が人間に見えるなんて…』
そして、意識を失った。

目を覚ますと、「彼」が……いや、「やつ」が私の為に団扇で扇いでいた。前足で、もとい手で。
「誰よ!あんた!」
そいつは、緩いウェーブがかかった黒い前髪を、長く垂らしてビーズでまとめていた。人間のように見える、長い黒髪から覗く犬の耳以外は。こんな喩えはおかしいけれど、何処となく受難を描いた絵のなかのキリストみたいな顔だった。やつれて、髭も伸び放題で…
「おれ・・・いや、わたしはクゾクのもので、名を…飃(つむじ)と言う」
「狗族?狗族って…何なのよ!それよりあんたはここで一体何をしてるの?さっきの狼…」そいつの長い指が私の口を閉じさせた。
「クゾクとは…古の大和びとが神とあがめた狗たちの成れの果て。あの狼は私の仮の姿で…」
「じゃぁあんた…!」私の裸、見たんだ!そしてそれよりもっと悪いことに、こいつは私が最も恐れていた悪夢の実現だった。
「恐れながら」私の言葉が続かないのを見てそいつは勝手に続けた。「貴殿は八条さくら殿とお見受けするが」
「そっ…そうよ。狗族なんて…天狗もどきが何の用なの」しどろもどろ答えた。


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