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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃(つむじ)の啼く……-2

妖怪の話は、父から嫌になるくらい聞かされた。妖怪「天狗」のルーツは、日本古来の土着宗教で信仰の対象だった、狐だ。天狗の鼻が長いのは狐の顔を模したからなのだ。父が私に妖怪の話をするのを母はいやがったが、無駄だった。父はそれこそ、死の間際まで私に言い続けたのだ。私とその、妙な天狗との運命について。
このとき気づいたが、私は服を着ていない。こいつに裸のままここまで運ばれたと思うと、恥ずかしさで誰かの顔面に竹刀をぶち込んでやりたい気分だ。手始めに目の前のこいつでもいい。
「そこまでご存じなら話は早…」
「早くないわよ。私はお断り。いい?戻って長老だか何だかに伝えて。私は、あんたらの一族がどうなろうが…」
「今は私が長だ。」
「ああそう、ならいいわ……あんたが?」
彼の面影にキリストがよぎるのは、悲しみをたたえているからだということに気づいた。彼も、彼の受難を生きているんだ。

「お父上からお聞およびか。我々の部族にもう成年した狗は居らぬ。きやつは村のほとんどを食らい尽した・・・。己はたった今村から逃げてここまでやって来たんだ。」痛々しい沈黙が続いた。
「父は死んだわ…母もね。」そして、私も死んだのと同じだ。彼がここにきた理由は一つ。

私を生け贄にするためだ。

この国で、古くから人間の側に居て、狗族は神としてあがめられていた。新しい宗教がやってきて、彼らは妖怪に地位を落したけど、それでも、連なる鳥居の向こうや、誰も省みなくなった森の中に、彼らは居た。しかし、彼らは段々と数を減らした。「悪意の塊」達が、彼らを滅ぼし始めた。
「そいつは起源も、終焉も持ち合わせていない。ただ、人間の無関心が生んだ、新たな化物だ。」父はこう説明した。私達が信仰を、自然を愛して崇める気持ちを失ったから、その「無関心」が善くないものを集めて、それが彼ら「狗族」を滅ぼしているんだと。
「………いいわよ、やるわよ」ぼそっと、呟いた。
「さくら殿。我々は…いや、己は、義務や宿命のためにこんな事をしたくはない。」
「…じゃぁ、どうすんのよ。ややらないわけにはいかないでしょ…だから…あぁもう!」言葉が見つからなくて、苛々する。
私の役割は、生れた時から決まってた。狗族について知らないはずがない。私の父は狗族だったのだから。そして、私は彼らの敵を滅ぼす「武器」の容れ物らしい。その武器を取り出しに、いつか狗族がやって来る。私を娶(めと)る為に。だって、だって…その武器を取り出す方法は…
「コンドーム、持ってんでしょうね?」つっけんどんに言った。我ながらムードのかけらもない。
「待て、己の話はまだ終わってない。いいか、お前の父と友人だった伯父がお前は良い娘だと言って居た。己も、お前に助けられた時にそう思った。お前は賢く、機敏で、器量もよい。」
「う…」言葉が見つからない。奴はベッドに腰を下ろした。「こんなことを言ったところでこれからすることに変わりはないが、誓って言う。」彼はそこで、もう少しだけ私に寄り添った。「己は義務でお前を抱くのではない。お前が己にそうさせるのだ、良いか?」奴の…ツムジの声は、低くて、怪我を負って弱っているせいで少しかすれて、とっても…とても……
「八条さくら……いまからお前は私の妻だ。」
抗えない。
「……はい……。」



狗族の婚礼はセックスそのもので行われる。狗族の夫婦は一生添い遂げる。最初から解っていたことだけど、私、今日からこの人の奥さんなんだぁ。。。布団をかぶって、目の前の、今出会ったばかりの男が服を脱ぐのをぼんやり見つめていた。


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