夜の学校-3
「なんでこんな時間に昇降口の鍵が開いているんだよ！」
「そんなこと俺に聞かれてもしらねえよ！ でも俺は最初からそんな予感がしたんだ。鍵は必要ないってな。イェイ！」
近藤がさっきとは打って変わったニッコリスマイルで、親指を俺の前につき立てながら言った。調子のいい奴だ。まったくどこまでも殴りたくなる奴だ。
「お前、明らかに扉が開いて驚き、喜んでたじゃねえかよ！？ ハッタリ言ってんじゃねえよ！」
「まあいいだろうが。俺の首もつながったわけだし…。さて、それじゃ中にはいってみよーかー？」
近藤は元気をすっかり取り戻して、俺の背中を押してどんどん校舎の中へ入っていった。なんて調子のいい奴なんだ。
入ってすぐ近藤がとある意見を提案してきた。その意見とは夜の学校をうろついてるのをというのはタダの学校の怪談話に過ぎないと思うので、当初の目的であるその男の正体を突き止めるのをやめて、夜の学校の幽霊が出そうな雰囲気を味わう、という小学生並の方針に軌道修正することである。俺は正直どちらでもよか ったので二つ返事でＯＫした。
「さて、図書館、音楽室、理科室、女子トイレ、いろんな所がこう言った話では考えられると思うが、近藤はどこから回りたいんだ」
下手に暗闇の中を動くとまずいだろうと思った俺は、まずどこから探索するかを近藤と相談することにした。さっきの怒りで眠気もすっかりさめてしまったししばらく付き合うことにしたのだ。 近藤はきょろきょろ周りを見回してしばらく考えたあと、
「うーむ、まあまずは女子トイレだな」
「近藤…お前まさか」
「なんでそこでそうなるんだよ！？ 女子トイレといえば怪談話の定番だろうが！ トイレの花子さんだろうが！」
「ああ、それもそうだな、悪い。お前を見損ないそうになったよ」
「お前、俺をなんだと思ってるんだよもう！」
そう俺に突っかかった後、近藤はぶつぶつ言いながら女子トイレに向かっていった。俺もそれに続く。
階段の前まで来た、そろそろこのあたりにあったかな？ 電灯のスイッチぐらいなら階段にあると知っていたのでスイッチを暗闇の中から探り当て、なんなく明かりをつける。女子トイレに続く階段の電灯からもたらされた光は弱弱しく淡い光だった。それがまた妙な雰囲気を出していたのだった。
階段をのぼりとうとう女子トイレの前に来た。さて、果たしてここにトイレの花子さんがいるのか否か？ いるわきゃないな。答えは明白だ。そもそもなぜ俺が校舎内を回る場所を近藤に相談したかというと、幽霊などが実際にいないことを確かめさせて夜の学校探検などというバカげた真似をする気を二度と彼に起こさせな いためである。そして音楽室など噂話や怪談などで幽霊がでそうなところを回って、現実にはそんなものいないんだ、と彼を説得するのが今回の俺の目的と化した。
彼のおバカな性格に俺が責任を持って天誅を下すことにしたのである。いつまでも俺たちもバカやってられないしな。そう思うだろ、なあ近藤？
「……ん？ お前さっきからなに考えこんでんだ？」
とそんなことを考えていた俺に近藤の怪訝そうな顔が近づいてきた。
「いや、なんでもないなんでもない。それより女子トイレにさっさと入ろうぜ。花子さんがいるかもしれねえんだろ？」
と俺は心にもないことを近藤に言ってみる。
「うむ、慎重に中を除いて見なければなるまい。それでは君からまず行ってみてくれ」
突然近藤の口調が重々しい不気味なものに変わった。まあ奴が不気味になるのは日常茶飯事のことだが。彼なりに雰囲気が出るよう精一杯努力しているのだろう、 と俺はできるだけいい方向に解釈してみた。
「了解しました。これから恐怖の第一関門、女子便所へと続く扉を開きます。近藤殿も私の後にお続きください」
と俺もこの意味不明なノリに乗ってみた。
しかし女子トイレって生まれてはじめて入るなあ、と少し感動。とはいっても中の様子なんてものは大体想像がつく、ただ便器が並んでいるだけだろう。男子トイレのとの違うところといっても便器の形状だけでそれ以外なんの変わりもないだろう。そりゃあトイレなんだからしょうがないけどな。ただ用が足せればいい。そ んなところなのだトイレという場所は・・・。これは男女共通であることは確証を持って言える。