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【思い出よりも…】
【女性向け 官能小説】

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【思い出よりも…前編】-4

ー夜ー

病院に寄ったのが功を奏したのか、帰社時には身体が軽く感じられた。私はいつものように地下鉄に乗ろうと財布からカードを取り出そうとした時、何やら書き込まれたレシートを目にする。
そのレシートを財布から取り出す。
見ると『慶子』と書かれた下に携帯番号と思われる数字が乱雑に書いてあった。

(これはケイちゃんの…)

途端、心臓の鼓動がけたたましく鳴り響く。レシートを持つ手が小刻みに震えている。
私は踵を返すと、階段を駆け出し地上へと急いだ。

私は携帯を取り出すと、レシートの番号を押した。間もなく呼び出し音が耳元で響く。1コール…2コール…

(何をしてるんだ…)

相手が出ないもどらしさと、(何を話したら良いんだろう)と言う焦りに私の喉は急速に渇いている。
8コール目にカチャッという接続音と共に、先ほど見た笑顔を思い出させる慶子の声が聴こえた。

「はい、二宮です…」

私はその声を聴いて、すぐに反応出来ずにいた。

「…もしもし?」

(このまま、無言電話じゃ変態だ)
私は意を決して彼女に返答した。

「あぁ……伊吹…ですが…」

その途端、慶子は破顔したような声を私に浴びせ掛ける。

「よかった〜!レシート見てくれたんだ!さっきの伊吹君、私と視線合わせてくれないんだもん!嫌がられてるのかと思って…」

「そ、そんな…まさかケイちゃんが、あの病院にいるとはさ…」

「ねぇ、今から会えない?久しぶりに貴方と呑みたいな…積もる話もあるからさ」

私には彼女の申し出を断る理由も見つからず、即、受け入れた。

指定された場所はイタリア料理の店だった。ここは以前、私も訪れた事があった。
本格的なイタリアの家庭料理を食べさせるためか非常にリーズナブルで有名な店だ。
店の中を見回したが、まだ慶子は来ていなかった。私は仕方なくテーブルに座ると、シェリー酒を呑んでいた。
果たして、慶子は現れた。すぐに私を見つけると、笑顔と1オクターブ高い声で私の居るテーブルに滑り込んだ。

「ごめんなさい!私が誘っておきながら」

「そんな事ないよ。シェリー酒を舐めながら神様に感謝していたんだ」

「神……?」

「ああ…20年ぶりにケイちゃんに会えた事をね」

慶子はわずかに頬を染めながら、私に『バ〜カ』と言った。40歳とは言え、その顔は実に可愛らしく見える。


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