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【思い出よりも…】
【女性向け 官能小説】

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【思い出よりも…前編】-3

「風邪…ですね」

約一時間あまりの検査の後、看護婦にうながされて診察室に入った私に、医師は検査結果から開口一番、こう告げた。

「…やはり」

「ワクチン注射と…薬を出しておきましょう」

医師はカルテになにやら書き込むと、パソコンのタッチ・パネルを素早く操作する。

「第七処置室でお待ち下さい」

私は医師に礼を言って診察室を出た。それからまた一時間あまり、処置に時間を費やした。

ようやく全ての処置を終えた時には時刻はすでに11時を過ぎていた。

(だから総合病院はイヤなんだ。時間ばかり掛り過ぎて……次からは自宅近くの町医者に行こう。あそこなら30分で済むから)

と、イラだちを抑えながら精算を待つ私に、精算カウンターから声が掛かる。

「伊吹さ〜ん!」

私は待合室から立ち上がると、足早にカウンターに近寄った。

「伊吹ですが…」

「伊吹…雅也さん……?」

精算手続きを進めながら、その女性は私の名前を訝ぶかし気な表情で訊いた。
白い肌に黒く大きな瞳、整った鼻梁、少し厚みのある唇にはそれを際立たせるような紅いルージュ。
私はその顔にしばし、見入ってしまった。どこかで見覚のあると思えたからだ。

「伊吹雅也さん」

再び彼女の声に私は、我にかえると、

「ああ、すいません。伊吹ですが…」

私の反応に彼女は口元を柔和な形に変えて、

「久しぶりね!伊吹君」

(やっぱり知り合いだ。だが、思い出せない)

「失礼ですが…」

その言葉に彼女は、一層の笑みを浮かべると、

「私よ!慶子。二宮慶子」

その言葉を聞いた途端、私の頭の中は20年前がフラッシュ・バックして蘇った。

「ケイちゃんかい!久しぶりじゃないか」

二宮慶子。かつて、高校時代、私が付き合った年上の恋人。

彼女の大学進学とともに徐々に疎遠となり、自然消滅というカタチで別れたのだった。

慶子は私に笑顔で接し、何かを伝えようとしたが、周りからの視線を気にしたのか一変、事務的な態度へと変わった。

「あっ…伊吹さん…今日は2,200円です」

私は慌てて財布を取り出すと、千円札3枚を彼女に渡した。
慶子は馴れた手つきでレジスターを操作し、おつりとレシートを渡そうとして、レシートに何やら書き込み私に渡した。

「お大事に…」

慶子はにっこり笑ってそう言うと、私から視線を外して次の精算手続きを進める。

「どうも…」

私は、その言葉を慶子に残して病院を後にした……


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