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【思い出よりも…】
【女性向け 官能小説】

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【思い出よりも…終編】-10

ーエピローグー

ー半年後ー

私の傷は、幸い腸にまで達していなかったため、ひと月足らずで退院となった。

そのひと月後、私は会社を退職した。社に戻った私に待っていたのは、地方支店への異動だった。しかも、今のキャリアーを降格したカタチで。

私はこれ以上、会社に迷惑を掛けたくはなかった。

その後、妻との離婚が正式に決まった。娘の親権も加奈枝のモノとなった。

私は全てを失った。


それから3ヶ月後、慶子の裁判が始まった。久しぶりに見る慶子は、地味な服装に髪は無造作に束ね、艶もなくやつれていた。

私は必死に慶子を弁護した。この被害者が加害者の弁護をするという異例な裁判は、殺人未遂にしては異例ともいえる懲役3年という判決で幕を迎えた。


ある日の夜、沢田とバーに行った。そこは、慶子のお気に入りのバーだ。2人はスコッチを舐めながら、バーテンダーの華麗な舞いを眺めていた。

沈黙を沢田が破る。

「伊吹さん、貴方のおかげで姉は救われましたよ」

「いや…全て私が悪いんだ。彼女へ無理やりに関係を迫ったのは私なんだ…」

私は一気にグラスを傾けた。熱いモノが喉を通るが酔いは無かった。

「会いに行くのはダメ…かな…」

私の問いかけに沢田は首を振った。

「最近、会ったら随分と明るくなってましたよ。でも、止めて下さい。変な里心がついてしまうと困りますから……」

「今さら分かったよ……オレには彼女が必要なんだ!」

自分でもみっともなかった。沢田を見る目からは涙が溢れ出し、唇は震えているのだ。

沢田はため息混じりに、

「手紙を書いてもらえますか?私が面会に行った時に渡しますから」

私は震える指先で沢田の腕を掴むと、頭を下げ、

「あ…ありがとう……」



私は慶子を待っている。いつまでも……

それは思い出よりも、現在(いま)を選び彼女を愛した証だから……


…【思い出よりも…完】…


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