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嫁が、バーゲンへ連れてけと。
【コメディ 恋愛小説】

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嫁が、バーゲンへ連れてけと。-2

「もうっ、男の癖に細かいわねぇ……」

口を尖らせながらラジオのスイッチを入れる嫁。
少しボリュームを上げたのは「いいから、黙って運転すればいいの」って事なんだろうな、まったく。


そんな風に絶好調な嫁と、なかば絶不調な俺を乗せて、車は軽やかに閑散とした街中を滑る様に走って行く。
アパートを出てから、まだ十分少々しか走っていないのに、既にフロントガラスの彼方には目的地のものと思われる派手なアドバルーンが何本も立ちあがりユラユラと揺れているのが見える。
普段なら30分程はかかる距離……
ショッピングモールには、事のほか早く着きそうだ。
おそらくこれは、連休連休と浮かれた世間一般……
つまるところ、何処かの誰かさんとは違い、キッチリと家計をヤリクリして、レジャー費用を捻出する事に成功した良妻を擁する御家庭の皆様が、一斉に市外に行楽へと赴かれたおかげである事に因る。
そんな事は考えもつかないであろう嫁は、ガラ空きの道を行く軽快なドライブに終始上機嫌で……
「♪大好きな人がとお〜おい〜」
……ラジオに合わせて熱唱、ご覧の有り様だ。
「♪とまらないのよ〜ヘィ!」
ヘィ! ……じゃねーよ、まったく。
「う〜ん、ノリは良いけど中身が薄いわよねぇ、この曲」
頭のネジが五〜六本ぶっとんだ、カラオケボックス限定の自称ボーカリストに、的外れな辛口批評を受ける筋合いは無いだろうな、このアーティスト。
「なによ、なんか言いたそうね?」
時々妙な感の鋭どさを見せる嫁が、怪訝な顔で助手席から乗り出し俺を覗きこむ。
「ん、別に」
すかさず応え、ごまかしながら
「 ……それより、まず何を買うんだ?」
「そうそう、えっとね……」
丸めていたチラシを広げ、こちらに見せようとする……
が、再び閉じ戻して、大きな丸い瞳を二三瞬かせつつ此方を見つめながら、ニヤリと笑う。
「な、なんだっ?」
「ふふん、良いこと思い付いたっ♪」
「はぁ?」
「アタシがね、一人で売り場に行って、アンタがアタシに着て欲しい服を当てて買って来るの」
「ほぉ、それで?」
「ズバリ当たってたら、今日のランチはアンタが自分の小遣いで奢るのよっ!」
「だっ、なんとっ?」
また、勝手な事を!
「うん、決まりねっ!」
だから勝手に決めるな!
さては、こいつ……
俺の小遣いを万年赤字な家計の、細やかな補填に利用しようと企んでいやがるな?
ならば、こう反そうか。
「じゃあさ、外れたらどうするんだよ?」
「……新しいパソコンを買ってもいいわ。但し、夏のボーナス払いで」
それって、自分が欲しいんじゃないのか? 
……と思わず突っ込んでやりたくなるが、まあ不足は無い。
「よし、のった」
即答、だ。


俺達は駐車場に車を停めると、一番近くにある入り口から店の中へと向かった。
ここに来る途中の街中はアレほど閑散としていたのにも関わらず、店内は大層な賑わいを見せていて、息の詰まるような雑踏と時折何処からともなく響く子供の叫び声や赤ん坊の泣き声が、その場の不快指数を軒並急上昇させていた。
世間の旦那様達の、休日の憂鬱を凝縮した様な空間。
さしずめ俺も今この瞬間に、その前列に加わってしまった事は言うまでもない。
「それじゃ、アタシは服のコーナーに行くからさ? そっちは何処かで時間を潰してて!」
嫁の考えた、このゲームのルールは
「買い物が終わったら携帯で連絡をとりあって待ち合わせて、そして買ってきた洋服を袋から開ける前に、アンタが頭の中の着て欲しい服を言うのよっ!」
と、いうものだ。
尚、この回答は「スカート」とか「ズボン」という暫定的なモノで良いらしい。
ちなみに、バーゲン品であるという事が条件だそうな。
こうなってくると寧ろ、嫁が買ってきた洋服の種類を俺が当てるという内容に変えた方が簡単な気もするが、そこまでこだわる必要は無いと判断し放っておく事にする。


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