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嫁が、バーゲンへ連れてけと。
【コメディ 恋愛小説】

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嫁が、バーゲンへ連れてけと。-1

春眠暁を覚えず 

……なんて言葉は、なにも春に限った事ではなく、惜しまれながらも春の嵐に桜の花びらが跡形もなく吹きとばされた、その後日である昨今……
つまり、気候的には初夏ともいえる今日に対しても十分言える事で、ましてや毎年お馴染の大型連休の最中ともなればなおさらだ。

いつの頃からだろう。
俺の中の、連休だの長期休暇だのに対する価値観が「楽しみで待ちどおしい」から「眠れるから待ちどおしい」に変わってしまったのは。

多少歳をかさねた事…… 
とは言え、まだ俺は二十代半ばではあるが、それが主な理由?
それとも、日々の仕事?
いや、年度末の喧騒を何とかやりすごした俺の職場は、新年度を迎えて以降は常に「ぬるま湯」状態にある。
普段は何かと口煩い課長ですら勤務時間中に、デスクトップでポーカーに興じている程だ。
では、アレか?
やっぱり、その理由の大半は……
「ちょっと! 何、布団の中でブツブツ言ってんのよっ!」
年中お気楽マイペースで、その上かなりの強引……
もとい、ゴーイングマイウエイなスタイルを地で行くこの女を、その場の勢いとはいえ、人生の伴侶に選らんでしまったから……

なんだろうな、やはり。

「早く起きるのっ! 今日は開店と同時に踏み込んでやるんだから…… ほら、早く起きて支度してっ!」

月並みな言葉だが、敢えて言おう。

休みの日くらい、頼むから寝かせろ。


嫁に叩き起こされてから数分後。
俺は、寝癖もろくに始末できなかった髪の体裁を右手で気にしながら、その対の手で力無く車のハンドルを握っていた。
隣では、相変わらずの軽く束ねたセミロングの髪型にTシャツ、ストレートデニム姿の我が奥方様が、本日の目的地であるショッピングモールのぶ厚い広告をクルクルと丸め、ブンブン振り回しながら御乱心だ。
「いいこと? 今日のバーゲンを逃したらね、我が家の衣料事情は深刻な問題を抱える事になるの!
いまアタシ達が着ている『春先でも着れる冬モノ』から、一気に『常夏ファッション』へシフトする事になるわっ!
つまり、今のこの微妙な季節に着るものが、全然無いって事!」

知った事か。

押し入れの中には去年のがあるし、たぶん「それ」はタンスの中にだってある。
しかし、これに関しては「じゃあ、後で出しておいてよね」とか言われると面倒なので黙っておくが。
大体、まだ子供も居ない気楽な二人暮らしの筈の俺達が、バーゲンの春夏モノを目の色を変えて(俺は変えていないが)追い回さなければならなくなったのは
「まったく、お前の所為だろうに」
「! ……なによ、突然」
「連休初日に、みんなを招いて、気前良く酒だの料理だのを振る舞うから、ちょっとした買い物をする余裕すら無くなるんだ」
ちなみに「みんな」とは、未だ未婚の高校時代の悪友達の事を指す。
まあ、共に青春時代を過ごした地元にかまえた俺達の新居(とはいっても安アパート)が、互いの共通の悪友達の週末の溜り場になるのは当然といえば当然の流れではあるものの、今に始まった事ではない嫁の「超が付く程の、お祭り好きな性格」のおかげで、これまでも我が家の家計は度々危機的状況に瀕している。


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