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僕とお姉様
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僕とお姉様〜会いに行く〜-2

「あと、お姉さんにもね」
「へ!?」
「メール」
「あぁ…」

メールか。
これまでに何度か携帯をメール作成画面にはしたんだ。でも初めの一文字が打てず、向こうからも何もなく音信不通のまま時間だけが過ぎた。

「あの人、元気?」

僕はそれすら知らない。

「多分ね」

答えは予想に反して曖昧なものだった。

「多分って?」
「あたしも最近会ってないの」
「…何で?家にいるんでしょ?」

話の内容に少し不安を感じつつ平静を装う。早くその先が聞きたいのに、ひばりちゃんはまるでじらすように自身の注文したコーヒーに手をつけた。

「お姉さん、夜のバイト始めたんだよ」
「は?え、夜って水――」
「居酒屋のホールスタッフだって」
「…あ、そぅ…」

一瞬取り乱したのを悟られぬよう、慌てていつもの冷静仮面を取り付けた。

「夕方出勤の明け方帰宅で昼夜逆転生活してるから」

働いてるんだ…
体の真ん中をすーっと風が通り抜けて行く。
自分が知らないうちに新しい事を始められた寂しさを感じた。


その後ひばりちゃんは友達と約束があると言って駅の方へ向かった。
結局一度も僕を責めなかったな。理由はどうであれ僕は実母を選んだのに。
悪い事をしてる自覚がある一方、お姉様の様子が聞けなくてがっかりもしてる。
最近の癖。一歩外に出た瞬間から偶然を探してあちこちに視線をやってしまう。“会いたい人に街中でばったり”なんてありえない偶然をを願ってる。
本当はひばりちゃんに無理やり家に連れて行かれたかった。そしたらそれを言い訳にできるから。
でも実際そんな偶然なんてあり得ないし、都合良く人の背中を押してくれるようなお節介な第三者もいない。
自分が動かなきゃ状況だって動く筈ないのは誰よりも知ってるつもりだ。
僕はお姉様に会いたい。
そんな欲求がついに頭の中をいっぱいにして、気付けば家に向かって猛スピードでペダルをこいでいた。
お姉様が絡むといつもこう。
僕が、僕になれるんだ。



そんな勢いだけで自分の部屋の前まで来たものの…
どんな顔して中に入ればいいんだ?
会いたいから来た。でも別れ方を考えるとやっぱり会いづらい。
欲求のランクを“会いたい”から“顔が見たい”に下げようかな。昼夜逆転してるなら寝てるだろうし、何を話したらいいのか分からない今の僕にはそれで精一杯。

「…よし」

小さく気合いを入れると、音を立てないよう細心の注意を払ってドアノブに手をかけた。隙間から見えるのは住み慣れた光景…

「!?」

じゃない!!!!
音がどうこう言ってた事など忘れて一気にドアを全開にした。

「……………」

言葉が出ない。
家を出たその時までモノトーンで統一されていた僕の部屋が、ピンクと赤の空間に変わっている。シーツ枕カバーはもちろん、カーテンや僕が使っていた客用の布団まで全部。部屋のあちこちには見慣れないクッションやらぬいぐるみが転がってるし、窓にはハートや花のクリアシールが貼られ、机の上はもはやドレッサーとしか言いようがないほどの化粧品で埋め尽くされてる。
あまりの変わりように力が抜け、膝はガクンと床についた。


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