秘密〜哉嗣の想い〜-1
1 秘密
〜哉嗣の想い〜
『ごめんね』
ーかあさま?
『ごめんなさいっ、哉嗣(チカシ)さん・・っ』
ーどうしたの?なんでないているの?
『母様が、もう少し強かったら・・・』
ー・・かあさま?
「・・・っ」
ーまた、あの夢か・・・・。
おかげで目が覚めてしまった。
ふうっと息を吐き、上体を起こす。
「・・五時か。」
起きるには、まだ早い。
久しぶりに見たな、と思う。暫くの間見ていなかった夢だ。
「ー母さん・・・」
思い出す度に辛くなる。忘れたいのに、忘れられない。
「っは、」
ー呆れる。
良い年齢して、まだ夢に脅えるとは。
つー、と顔を天井に向ける。
脳裏に浮かぶのは、想いを寄せる少女。
「そう言えば、」
あの夢を見なくなったのは、彼女のお陰だったな。
記憶が遡のぼる。
〜五年前〜
「君が、哉嗣か?」
母の通夜の日だった。見知らぬ男が、話しかけてきた。
「・・・はい。そうですが、」
いぶかしみながら、男を見る。
年は四十近くだろう。険しい眉間と、冷たい目が印象的だった。
数日後、学校帰りに拉致された。
着いたところは物凄く広い屋敷。
そこで知ったのは、自分の出生の秘密と父親。そして、母親の立場。それは、十五の俺にとって、とてもショックな真実だった。自分の母親が愛人で、自分は通夜の時に会った男の息子だったとは。
俺の父親と名乗る男は、俺に家を与えそこで暮らすようにと言った。
ーその時からだ。あの夢を見る様になったのは。
何日も眠れない日が続き、心も体もぼろぼろになってしまっていた時、まだ幼かった彼女に出会った。
ー彼女にあった日も、ただぼんやりと、庭を眺めていた。
「何をしているの?」
幼く高い声に驚き、振り向くと、日本人形のように愛らしい少女が立っていた。
「ねぇ、何をしているの?」
かくっ、と首をかしげ、尋ねる。肩で切り揃えられている髪が流れ、丸みがかかった顔をさらっと撫でた。
「君、は」
「え?・・・あぁ、」と何かに気が付いたように笑う。
「ごめんなさい。名前を言ってなかったわね。私は、妃 菖(キサキアヤメ)。貴方は?」
「俺は、・・・哉嗣」名前を言いながら、ふと思い出す。
確か、本家の名字は『妃』。あの男には本妻がいると聞いた。ならばこの娘(コ)はあの男の娘だろう。
「?」
少女が不思議そうに哉嗣を見る。
ーこの娘が、俺の異母妹・・
「ねえっ」
ずいっと体を近付けてきた。
「あなた、私の『お兄様』なのでしょう?」きらきらきらと瞳を光らせて聞いてくる。
「嬉しい。私、ずっと兄弟が欲しかったの。仲良くしましょう、哉嗣兄さま」
にこっと笑い、手を差し出してきた。
ー変な娘。
手を握り返しながらの第一印象はそれだった。