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秘密
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秘密〜菖の恋〜-10

9
「そうですか?」
ちらっと疑い深く先生を見る。
「うん、そうですね」
涼しげな顔で答え、楽譜を見た。
「ここがちょっと怪しいけど。」
その場所を指しながら、実際に弾く。上から覆い被さるようになり、どきどきする。
「分かった?」
すっと体を引き、尋ねてきた。
「は、はいっ」
「まぁ、頑張れ」
くしゃっと私の頭を撫でる。先生は、私を子供扱いする。それがとても悲しい。
「?なに?」
長い時間見つめていたのか、先生が不思議そうに私を見た。
「いえ、何も」
にこっと笑い、顔を背ける。
「・・・。」
和馬はその様子に、軽く目を見張る。
「先生?どうか・・・・っん」
一瞬、何がおきたのか分からなかった。
唇に柔らかい感触がある。
がたんっ
「っきゃ」
急に押された。
「・・先生?」
先生も驚いたように私を見る。
「ごめんっ」
そう言うと、音楽室を出ていった。

後に残され、ぼーぜんとその場に座り込む。ー何だったのだろうか。
「夢?っいたっ」
さっき、背中を打ってしまい、そこがずきずきする。
痛い、けれどお陰で、夢ではないことが分かった。
「うそ・・」
先生と、キスしてしまった。
「でも、水野先生は?」
喜びたいが、素直に喜べない。
楸先生は、水野先生と付き合っているはず。ならば、さっきのは、
「気まぐれ?何となく?」
つー、と涙が溢れる。何で、『ごめん』だけ言って帰るの?
「分からない・・・」

「菖?」
暫くの間座り込んでると、人が入ってきた。
「・・哉嗣さん?何で・・・」
「何でって、菖の帰りが遅いから・・って、泣いてたのか?」
哉嗣も座り込んで、菖の瞳に触れる。
「っ!!」
逃げようとすると、抱きすくめられた。
「やっ、哉嗣さんっ」
「何で泣いてた?」
「っ別に、貴方に関係ないでしょうっ」
哉嗣から逃れようともがくが、動けない。
「有るよ。俺は、君の兄で婚約者だ」
答える声は真摯的だ。だが、語気に強い響きが残っている。
「・・っぅ。っあ、ふっ」
涙がまた溢れてきた。
「菖・・・?」
ー優しい声で、話しかけないで。
「どうした?何があった?」
ー哉嗣さん、止めて。
優しくしないで。
「・・っぅあ」
涙が止まらない。
「菖・・・・」
腕に力が入る。
「何?何で泣いてんの?何があった?」
ふるふると頭を横に振る。言葉にならない。
「っ何でも、ないっ」
「菖・・・」
不意に哉嗣の顔が近付いてきた。
すっ、と菖ののまぶたが落ちる。
「菖・・・、」
「・・・・っん、」
何かを求めるようなキス。

 車から薄赤色の空が見える。ぼんやりと空を見ながら、思う。

ー私は、これからどう生きるのだろう・・


秘密〜哉嗣の想い〜編へ続く
-10-


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