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秘密
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秘密〜哉嗣の想い〜-2

2 秘密
〜哉嗣の想い〜
 最初に異変に気が付いたのは、彼女と出会ってから二ヶ月経った日の朝だった。

「・・・ん」
いつものように目が覚める。妙な夢を見ないで済んだ。実に清々しい朝だ。
「失礼致します」
す、と襖が開き、使用人が頭を下げて座っている。こんな光景もすっかり見慣れた。
「起きられますか?」顔を伏せたまま聞いてくる。
「ー・・ああ」
「では、菖さまが来ておられますので居間の方へ、」
「菖が?」
何の用だろう。


「失礼致します。哉嗣さまをお連れ致しました」
「お入りになって」
中から、涼しい声がした。
「菖?何の・・・」
用だ?と言おうとしたトコを遮られる。
「お兄様、夏休みと言えど寝てばかりではいけませんわ。それに私は妹ですけど、きちんと服装も正してから来て下さいな」
「呼んだのは、お前だろう」
「けれど、」
「菖、用は?」
ぐっと言葉に詰まったように菖が俺を見る。
「少しの間、ここに置いてくださいません?」
「は!?」
意味が分からない。
「少しの間、一部屋お借りしますわ」
すっと立ち上がり、歩き出そうとする。
「ちょ、待てっ」
行こうとする体をその場に抑える。
「・・っ、あつっ」
体に触れ、異常に肌が熱いのに気付いた。
「お前、熱が・・・。風邪ひいてるのか?」
「・・・」
無言で、首を横に振る。
「気のせいよ」
 その言葉を聞いて、初めていつもより声が弱々しいのに気付く。
「気のせい、って・・・。そんなわけないだろう。家に送る」
「っやぁっ」
ぱしっと腕を払い、俺の側から離れる。
「嫌、ってどうすればー・・」
「お願い。あの家は、嫌なの」
泣きながら訴えてくる姿が、とても痛々しい。
ー何かあったのだろうか。
今、目の前にいる少女は、明らかにいつもとは違う。熱のせいだけでは無さそうだ。
「菖?何があった?」兄のように、初めて優しく話しかける。
 それに安心したのか、その場に座り込んだ。
ほっとして菖に近付く。肩が、ガタガタと震えている。まだ八月だったが、恐らく寒気がするのだろう。そっと腕の中に菖を入れる。
「ー・・っ」
一瞬びくっとしたが、おとなしく腕の中に収まった。
「・・・菖?」
急に反応がなくなり、驚いて妹を見る。
「寝たのか・・」
少しほっとした。

「ーん、にぃさま?」菖が目を覚まし、俺を見つめる。
「私・・・、」
「いい、起きるな」
起きようとしたところを軽く押さえ、寝かせる。
「ごめんなさい。」
すまなそうに言い、目を伏せた。
「・・私、あの家嫌い。お父様もお祖父様も。お母様とお祖母様以外の女の方と・・・」
口ごもり、目を開けてじっと真剣な顔で俺を見る。
「私は、私だけを好きになってくれる人がいいの。お父様とお祖父様は、お母様やお祖母様だけを好きにならなかったけど、そんなのは嫌。悲しいわ」


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